覚え書:「【東京エンタメ堂書店】<江上剛のこの本よかった>会話のコツを盗め! 面白すぎる対談もの」、『東京新聞』2016年07月04日(月)付。

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【東京エンタメ堂書店】

江上剛のこの本よかった>会話のコツを盗め! 面白すぎる対談もの
 
2016年7月4日


 対談ものはあまり読まない。二人より一人のことをじっくり知りたいからだ。そんな読者は多いと思う。
 しかしそんな思いを打ち砕いてくれるのがこの三冊。対談する双方のコミュ力(コミュニケーション力)がフル100%に出ていて面白い。最近、コミュ力不足が問題視されているが、それを学ぶにも格好の本たちだ。

◆食通して知る人柄
 まず<1>平松洋子著『食べる私』(文芸春秋、一八九〇円)は、食に関するエッセイの名人、平松さんが「食べものについて語れば、人間の核心が見えてくる」(あとがき)と、各界の著名人と対談したもの。
 のっけからスゴイ。デーブ・スペクターさんとの対談は打ちのめされるほどの迫力。デーブさんは寒い駄じゃれと速射砲のような歯切れの良いコメントで知られ、奥さまも日本人だ。食も日本通だと思っていたが、見事に裏切られた。
 懐石料理は「食べる時間が長すぎて、耐えられない」。鍋は「分かち合うのイヤなの」。フグは「あれね、気がついたんですけどポン酢がおいしいんだよね」と、もうボロクソ。「なににつけ中途はんぱがないところにこそ、このひとの真骨頂がある」と平松さんは彼の本質を見抜く。
 大食いタレントのギャル曽根さんが料理上手なお母さんだったり、堀江貴文さんが長野刑務所の料理を紹介したり。食にまつわる話なのに、それぞれの人間性や人生がまるごと迫ってくる。
 なぜこんなにも中身が濃いのか。それは平松さんが、素材(対談相手)の良さを十分に引き出すため己を空(むな)しくしているから。これこそ名料理人の姿勢ではないだろうか。

◆緊迫の知的バトル
 <2>竹内久美子×佐藤優著『佐藤優さん、神は本当に存在するのですか?』(文芸春秋、一六二〇円)は、宗教から哲学、国際政治まで博覧強記の佐藤さんと遺伝子に詳しい動物行動学者の竹内さんの対談。
 竹内さんの「佐藤優ほどの知性が、なんで『神様が実在する』なんて本気で信じられるのか、それが信じられなかったんですよ」という挑戦的な言葉で始まる。それに対し佐藤さんが、竹内さんが読んだというドーキンスの『神は妄想である』を引き合いに出してどんどん攻めまくる。
 中盤で聖書の隣人愛の話になり、佐藤さんが、それは博愛ではなく「自分と同じぐらい愛せる人の範囲だけでいい」と説明。「まさに動物の利他行動と同じ」と竹内さんの反撃が始まり、動物行動学の観点からの雄弁に佐藤さんが圧倒されていく。知的バトルに刺激され、私は二人が例示した本を何冊か買ってしまった。

◆西村節にくぎ付け
 <3>西村賢太著『風来鬼語・西村賢太対談集3』(扶桑社、一七二八円)は、圧倒的な強さの西村さんのアクに引き寄せられた人たち(私もその一人)が対談の相手。
 最初の相手は、芥川賞受賞直後の藤野可織さん。西村さんは、藤野さんによる西村作品の書評に「不覚にも涙が出ました」「以来、すっかり藤野ファンです」と告白し「かなり迷惑でしょうが」と屈折した姿勢で迫る。
 当然、藤野さんは「いえいえ、そんな(笑)。光栄です」。ここから西村節の全開。最後には、芥川賞とったくらいで書くものが変わったらプロじゃないといい「どうです。いいこと言っているでしょう」とドヤ顔。もう大笑い。
 また、西村さんが子供のころから憧れていた元プロ野球日本ハム)選手・永渕洋三さんとの対談には、うるうると涙がにじむ。三十七年もの間、願い続けた日本ハムの帽子へのサイン。「『さん』がいいですか」と問いかける永渕さんに「『君』にしていただけると嬉(うれ)しいです」と答える西村さん。アクがすっかり取れて子供に戻ってしまったのだろう。
 全編、西村さんの本音の魅力が見事に引き出されている。
  (えがみ・ごう=作家)
  ※二カ月に一回掲載。
    −−「【東京エンタメ堂書店】<江上剛のこの本よかった>会話のコツを盗め! 面白すぎる対談もの」、『東京新聞』2016年07月04日(月)付。

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