覚え書:「軍事と大学、縮まる距離 防衛省公募の技術に応募多数」、『朝日新聞』2016年06月12日(日)付。

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軍事と大学、縮まる距離 防衛省公募の技術に応募多数
安倍龍太郎2016年6月12日

防衛装備庁が募集した研究テーマの一例(2016年度)
 防衛装備品に応用可能な技術開発のため、基礎研究を委託、最大で年3千万円を拠出する――。防衛省が昨年度はじめたこの制度に、大学などの研究者が関心を寄せている。戦中に兵器開発に携わった反省を踏まえ、大学は軍事研究と距離を置いてきたが、研究費は先細り、両者の距離が縮まっている。

 防衛省が始めたのは「安全保障技術研究推進制度」。防衛装備品への応用を見据えた研究テーマを掲げ、大学や独立行政法人、企業らを対象に提案を募る。防衛装備庁が選定した上で、資金提供し研究を委託する。

 昨年度は、「マッハ5以上の極超音速飛行が可能なエンジン」「昆虫や小鳥サイズの小型飛行体」の実現につながる基礎技術などをテーマに募集。大学の研究者などから109件の応募があった。同省は9件の研究を採択し、3億円の予算を配分した。

 有毒ガスを吸収する素材開発案が採択されたのは、豊橋技術科学大の加藤亮助教(分析化学)だ。加藤氏は朝日新聞社の取材に対し、「最終的な製品として、使い捨てのような安価な誰でも使える防毒マスクとなることを期待している」とした。

 加藤氏は、「人を守る研究だが、募集が防衛省で人を殺傷する兵器を作る誤解が生まれはしないか、という懸念があった」と打ち明ける。さらに「世界で研究者が兵器開発に加担した悲劇を考えると、安易に防衛省の募集に応募していいものなのか?との思いもあった」と振り返った。

 昨年度、防衛省は推進制度の概要に「依頼する研究内容は、防衛装備品そのものの研究開発ではなく、将来の装備品に適用できる可能性のある基礎技術を想定している」などと記した。今年度、募集を手がけた防衛装備庁は「基礎的な技術には多義性があり、様々な応用が考えられる」と書き込んだ。装備庁関係者は「防衛装備品そのものの開発ではないことを強調した。大学側に根強い『軍事研究に加担することになるのでは』との不安を払拭(ふっしょく)するためだ」と話す。推進制度周知のため、3月に都内で初めて説明会を開催。約50人の研究者らが集まった。今年度の予算は継続研究も含め、6億円に拡大された。

 推進制度は大学をはじめ、レベルの高い研究機関から基礎研究分野で協力を得たいとの狙いがある。基礎研究の充実をはかるため、6月2日には自民党国防部会が安倍晋三首相に、推進制度の予算を100億円規模に増額することを盛り込んだ「防衛装備・技術政策に関する提言」を手渡した。

交付金減り研究費に苦心

 大学側の苦しい財政事情が、推進制度への関心を呼び込む背景になっている。国立大学が法人化された2004年以降、国からの交付金は削減が続き、04年度と14年度を比較すると約1割、約1290億円減った。研究者たちは公募による競争的資金を得る必要が生じた。

 加藤氏も「基盤経費を補うためにいくつもの競争的資金に応募しなくてはならない」と打ち明ける。大学が加藤氏に支給する研究費は年間約20万円。競争的資金の一つである推進制度に研究が採択されたことで、年間474万5千円を国から受け取る。

 戦後、日本の学会は、1950年に日本学術会議が「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない」とする声明を出すなど、軍事研究とは距離を置いてきた。戦時中、研究が軍部に利用されたとの反省からだ。ただ近年、介護福祉などの現場のほか、戦場でも使えるロボット技術など、民生と軍事の線引きが困難な技術が生まれている。

 今年5月26日、日本学術会議大西隆会長が会見を開き、「安全保障と学術に関する検討委員会」を設置したと発表した。現況を審議し、「あるべき関係」を探るためだ。4月25日には池内了・名古屋大名誉教授(宇宙物理学)らが、推進制度の広がりに危機感を募らせる他の研究者らと会見。「基礎研究だといくら強調しても、防衛予算のお金を使う以上は軍事研究だ」と訴えた。池内氏らは全国の大学をまわり、推進制度に応じないよう呼びかけている。

 だが昨年度、研究が採択されたある研究機関で働く若手研究者は「研究現場には、推進制度を正面から批判しにくい現状がある」と明かす。「若手は任期制も多く、雇用が安定しない。研究費が不足する中、結果を出すためどんな外部資金にも飛びつきたいのが本音。この弱みにつけ込まれてしまっている」(安倍龍太郎
    −−「軍事と大学、縮まる距離 防衛省公募の技術に応募多数」、『朝日新聞』2016年06月12日(日)付。

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http://www.asahi.com/articles/ASJ6B51JPJ6BUTFK008.html





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