覚え書:「著者に会いたい 過去をもつ人 荒川洋治さん [文]赤田康和」、『朝日新聞』2016年09月04日(日)付。

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著者に会いたい
過去をもつ人 荒川洋治さん
[文]赤田康和  [掲載]2016年09月04日

荒川洋治さん=赤田康和撮影


■本を限りなく愛す言葉の達人

 短い文を積み重ねる。リズムも良く、言い切る。難しい言葉は使わない。比喩がスパイスのように、体にしみてくる。評論の名手だ。
 新聞に掲載した書評など読書に関わる62編を集めた本作も荒川流。どうやって書評を書いたのか。手の内を聞くと「最初はざらっと読み、もう一度真剣に読む」。貼っていく付箋(ふせん)も「あらすじは青、引用予定箇所は赤、それ以外は黄色」と色分けしている。
 「相手の中に入っていかないといけない。そして作品世界をほどく」。論じる対象となる本を恋人のように語る。
 「書きながら僕自身が刺激されないといけない、言葉の飛沫(ひまつ)や響きによって」。詩を書くことを「本業」とする人らしい。言葉を精密に制御しつつも、制御を超えて自らの脳内に浮かぶ言葉の力を信じている。「全てが支配された文章はつまらない」
 例えば詩人で作家の高見順の魅力を解剖しようとして浮かんだ言葉は「節理」「文法」。「文の節理が、とてもきれいだ。通常の作家が文章なら、高見順は文法で表現する」
 詩壇では学識を表現の武器にする詩人を「IQ高官」と呼ぶなど辛口で知られるが、本作でも毒を発揮する。「いまは、時代と合わせる人ばかり」。それらしく見える長い文章の批評について、「よく見ると、実は何ひとつ書かれていないことが多い」。
 『過去をもつ人』という題は高見順の短編の登場人物の評から。「出来事が検証もされないまま、次々過去に流されていく。そんな時代の空気に抗したい」という思いも。「本には過去をつなぎとめる力がある。書評するほど世界が広がっていく」。本を限りなく愛する書評職人である。
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 みすず書房・2916円
    −−「著者に会いたい 過去をもつ人 荒川洋治さん [文]赤田康和」、『朝日新聞』2016年09月04日(日)付。

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http://book.asahi.com/reviews/column/2016090400012.html








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