覚え書:「【書く人】弱さを補い合う社会に 『人が人のなかで生きてゆくこと』 横浜市立大名誉教授・中西新太郎さん(67)」、『東京新聞』2015年09月27日(日)付。

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【書く人】

弱さを補い合う社会に 『人が人のなかで生きてゆくこと』 横浜市立大名誉教授・中西新太郎さん(67)

2015年9月27日
 
 大学で「現代日本社会論」を教えながら、引きこもりや貧困層の青少年支援などの現場に関わり、若い人の抱える問題を長年考えてきた。「人と人との関係がどんどん難しくなっている」という実感をもとに、お互いが支え合う社会をつくる方法を探った評論だ。
 副題は「社会をひらく『ケア』の視点から」。ここで言う「ケア」は、病気や障害がある人を世話するという狭い意味ではない。「ケアは一方的にしてあげるものではない。生まれた時や退職後のことを思えば分かりますが、人間は必ずどこかで他人に面倒を見てもらっている。私たちはケアをし、される関係の中で生きているんです」
 しかし、今の社会はゆとりを失い、お互い「弱み」を見せられない。「できるか、できないか」という物差しで人に優劣をつける価値観が支配し、できない人は「無能力」「努力不足」と非難される。身近な人への「駄目出し」が、他者を否定するヘイトスピーチが生まれる土壌となる−。本書は「このままでは社会は解体してしまう」という危機感に満ちている。
 「弱さ」や「傷つきやすさ」が人間関係を築く不可欠の資源であるような社会を考えることで、新たな展望が開けるという。「子供が危ない目に遭っていたら、周囲の大人は気付いて助けますよね。子供のような弱い存在は、お互いのことを考える力を引き出すことができる。人間同士が不完全な部分を補い合うことで、社会に強さと安心感が生まれるのだと思います」
 若者向け小説「ライトノベル」の文章を随所で引用した。一九九〇年代以降、千五百冊ほどを読み、そのうち千冊近くの特徴をデータベース化してある。「テキストには共通性がある。例えば、死者が主人公の小説が結構あります。死んでいるのでいじめられないし、社会から圧力を受けない。若い人が社会をどう考えているのかよく分かる」
 若い世代に、社会が変わる兆しを見いだしている。
 「各種の意識調査を見ると、人と人とが結び付いていない社会のあり方に、若い人の多くがおかしいと思っている。今までの延長線上ではなく、社会を作り直そうという動きが、政治の場を含めて始まっている。その動きをきちんと受け止めたいと思います」
 はるか書房発行、星雲社発売・一八三六円。 (石井敬)
    −−「【書く人】弱さを補い合う社会に 『人が人のなかで生きてゆくこと』 横浜市立大名誉教授・中西新太郎さん(67)」、『東京新聞』2015年09月27日(日)付。

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