覚え書:「書評:文字を作る仕事 鳥海修 著」、『東京新聞』2016年09月11日(日)付。

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文字を作る仕事 鳥海修 著

2016年9月11日
 
◆書体理想は「水、空気」
[評者]臼田捷治=デザイン評論家
 「活字の文字って自然にできたものではないの?」と思っている方がいるのでは。そうではないんですね。思いや考えを伝える役割を担う活字には書体設計士がいる。著者はその世界の大黒柱だ。
 活字書体には多くの種類がある。人目を引く個性的で装飾的な書体も。が、著者がこの道三十七年、一途(いちず)に究めてきたのは「水のような、空気のような」存在であることを理想とする、書籍、雑誌やデジタル環境用の本文書体。とくに格別の情熱を注ぎ、幾つもの秀作を残してきたのは活字文化の礎である、縦画が太く、横画が細い明朝体だ。「普通であること」「違和感なく受け入れられること」など、その勘所を説き明かす。そして、技術にも増して、借り物ではない姿勢と考え方が大切だと諭す。奥が深い!
 これまでの活動過程で刺激や影響を受けた才人たちとの交流が興味津々。本書装丁者でもあり、独特の描き文字で知られるベテラン平野甲賀さん、気鋭の現代書家にして批評家の石川九楊さん、活字書体にも秀でた見識を備える人気ブックデザイナー祖父江慎さんら。胸襟(きょうきん)を開いた、真率な意見交換に感動する。
 万を優に超す文字数と格闘する仕事。根気と繊細さが要求されるが、それを培ったのは、生まれ育った山形県庄内平野の厳しくも美しい風光。故郷への慈しみに満ちた眼差(まなざ)しにも心洗われる。
 (晶文社 ・ 1944円)
<とりのうみ・おさむ> 1955年生まれ。書体設計士。写研・字游工房で書体を開発。
◆もう1冊 
 雪朱里(あかり)ほか編著『もじ部』(グラフィック社)。鳥海ほか十余人の書体設計士に秘話と活字の使い方を聞く。
    −−「書評:文字を作る仕事 鳥海修 著」、『東京新聞』2016年09月11日(日)付。

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