覚え書:「18 私たちも投票します:最終回、復習します AKBと考える」、『朝日新聞』2016年06月19日(日)付。

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18 私たちも投票します:最終回、復習します AKBと考える
2016年6月19日

選挙に向けてのメッセージを手にする(右から)AKB48の加藤玲奈さん、向井地美音

 ◆第4部・いよいよ選挙 どうやって投票先を選ぶか

特集:18歳選挙権
 第3回・いざ投票へ

     ◇

 7月の参院選で初めて投票するAKB48の3人が、憲法学者の木村草太さん、ジャーナリストの津田大介さんと、政治や選挙について語り合う対談連載「私たちも投票します」は今回が最終回。昨年末から掲載した第1〜4部のポイントをおさらいし、来月10日の投票に備えます。初めて投票するみなさんへ、5人からのメッセージもいただきました。

 

 ■(1)自分以外の人の立場で考えよう

 Q 選挙って、どんな風に向き合えばいいのでしょうか。

 木村草太 「政治」とは、人それぞれに意見や価値観がある中で一つに決定し、その決定にみんなが従わなければならないということ。国だけでなく、いろんなところにある。

 AKB48は、振り付けを多数決で決めることがあるそうですが、これも政治です。1人の人が決めると、自分が尊重されていない感じがしますが、多数決は議論したり意見を言ったりできるから、納得が得られやすい。だから政治の決定でも多数決が使われます。

 選挙も多数決でみんなの代表を選びます。選挙の目的の一つは、「議員として優れた仕事ができるのは誰か」という、自分にとっての「正解」を選ぶこと。国民が間接的に立法(国のルール作り)に関わるという目的もあります。

 AKB48の「総選挙」は自分が誰を好きか考えて投票しますが、国会議員を選ぶときは、日本全体のために誰を選ぶのが一番いいかと考えて投票するので、好き嫌いとは違いますよね。

 例えば、貧困世帯の子どもの教育支援を拡大しようという候補者がいたら、自分の損得勘定ではなく、経済的に困っている人の気持ちをわかったうえで、投票する方がいい。自分の立場を離れ、政治に関する知識を十分に発揮して投票しなければいけないのです。

 加藤玲奈(れな) 大事なのは、社会のことを勉強すること。あと、自分以外の人の立場をよく考えることでしょうか。

 

 ■(2)多様な情報源、活用しよう

 Q たくさんある情報の中から、投票に必要なものを集めるコツは?

 津田大介 投票する時は、情報を自分の中でかみ砕いて理解し、自分の行動を決めたり、変えたりしなければなりません。

 大量の情報の中で、何が正しくて何が間違っているのか、それを見抜く力をメディアリテラシーと言います。記事に書いたり、テレビで放映したりしたことは、全部何らかの意図で「情報」としてまとめられている。それを批判的に読み取る能力です。

 ジャーナリストの下村健一さんの本=注=には、情報の意図を読み解くコツが四つ書かれています。

 一つ目は、情報をすぐにうのみにしないこと。二つ目は、事実と、意見や感想を区別して考えることです。記事でも、事実なのか、それとも書いている人の意見なのかで大きく違う。三つ目は、ほかの見方がないか探すこと。四つ目は、隠れているものはないか意識することです。

 大切なのは、ネット、紙、人の三つの情報源をうまく活用すること。そうすれば、偏ったものの見方に陥ることを防げます。でも単に情報を得るだけでは意味がなくて、その情報を使う必要がある。学びによって得た知識や情報をきっかけにして、自分の行動を変えていくことが大切です。

 茂木忍(もぎしのぶ) 情報を得る際には、自分でいろんなメディアに触れて、いろんなものの見方ができるようになることが大事なんですね。

     *

 【注】「10代からの情報キャッチボール入門――使えるメディア・リテラシー」(下村健一著、岩波書店

 

 ■(3)選挙区と比例区、違いを知ろう

 Q 私たちが投票する参院選は、どんな意味をもつ選挙ですか。選挙区と比例区それぞれの仕組みについて教えて下さい。

 木村 参院議員の任期は6年と決まっているので、長期的な視点でものを見て、議論できる面がある。3年ごとに議員の半数を選び直す参院選は、政治がうまくいっているかを国民が評価する「中間テスト」の意味を持ちます。

 参院選の投票用紙には、選挙区と比例区の2枚があります。選挙区では、候補者名を書き、多く票を集めた人が当選する。これまでは都道府県ごとでしたが、今回から鳥取と島根、徳島と高知が「合(ごう)区」に。議席の数は選挙区ごとに違って、鳥取・島根は1ですが、東京は6です。

 参院比例代表は、党の名前を書いてもいいし、候補者名を書いてもいい。例えば、AKB党から加藤さんが比例区に立候補し、投票用紙に「加藤玲奈」と書いた人が全国で100万人いたとします。その場合、加藤さんに入った100万票をAKB党の得票として数え、そのうえで各党の得票数に応じて「AKB党は10人当選」などと議席を振り分ける。次に、個人名の得票が多い順に当選者が決まります。

 向井地美音(むかいちみおん) 私たちの世代では知らない人も多いかも。私も学校で勉強はしましたが、いざ自分が投票するとなると、わかりにくいと感じます。

 

 ■(4)誰に投票するか、決めてみよう

 Q いよいよ参院選が始まります。投票先を決める時のポイントは?

 津田 今の与党は自民党公明党。ほかは野党です。「今の政治はよくない」と思う人は、野党に投票すべきです。逆に「特に不満はない」と思うなら、与党に入れればいい。ピンとくる人がいないときは、女性と若者の政治家が圧倒的に少ないことを思い出してください。高齢者ばかり投票するから、政治家は高齢者向けの政策を優先する。放っておくと、若い人や女性向けの政策がどんどんおろそかになります。

 選挙では、選挙公報や街頭掲示板のポスターを見て、自分の選挙区に誰が出ているかを確認しましょう。候補者の公式ホームページやSNSもチェックする。その中で共感できる人に投票すればいい。各党のホームページには、公約が載っています。

 「NG候補」を外す方法もある。実力者との関係や手柄話ばかり書き込み、自分の意見を一切言わない人、あいまいな公約を掲げる人はNGです。

 各新聞社などが設けるアンケート形式のサイト「ボートマッチ」や、自分の政治的な考えの傾向をみるサイト「ポリティカルコンパス」を使う方法もあります。

 加藤 具体的な政策の訴えがある人がいいと思います。将来の自分と重ね合わせながら、投票する人を選びたいです。=敬称略

 

 ■どうやって投票するの?

 選挙の日程が決まると、自宅宛てに投票所の入場券が送られてくる。住民票の住所に、その世帯の有権者全員分がまとめて届く。券には投票の日時や投票所の場所が書かれている。

 投票所では、まず受付の係員に入場券を渡す。忘れたりなくしたりしても、身分証明書などで本人確認ができれば投票はできる。

 投票用紙を受け取ったら記載台へ。選挙区なら候補者名、比例区なら候補者名か政党名のどちらかを用紙に書く。誤字や脱字があったり不要なことを書いたりすると票が無効になることもあるので、記載台に貼られた候補者や政党の一覧表を確認して記入。選挙区用と比例区用の2種類ある投票箱に、それぞれ間違えないよう用紙を入れる。

 仕事やレジャーで投票日に都合がつかない場合は、前もって投票する「期日前投票」制度もある。事前手続きは必要なく、公示翌日(今回は6月23日)から投票前日(7月9日)まで、地元の市区町村の役所などで受け付けている。

 

 <茂木忍(もぎしのぶ)さん(19)> 今までは投票できる年齢は20歳からだったので、すごく遠い未来のことだと思っていました。でも、選挙権を得るのが18歳からになり、私もそろそろ20歳。自分たちも政治に関わっているという意識を持ち、きちんと向き合って考えて、投票したいなと思います。

 <向井地美音(むかいちみおん)さん(18)> この対談をするまで、自分の1票では何も変わらないと思っていました。でも、政治に参加すること自体がすごく大事だし、私たち若者の投票率が上がれば、若者向けの政策が増えるかもしれない。一人ひとりの1票で未来を変えられたらいいなと思います。

 <加藤玲奈(れな)さん(18)> 私は、友達と政治の話はあまりしたことがなかったし、私たちと同じ世代の中には、投票しようという意思がまだない人もたくさんいると思います。だからこそ、若い世代のみなさんも投票に行きましょう!というメッセージを伝えたいです。

 <木村草太さん> まずは、自分の良心に従って投票をしてください。そして投票後の勉強や経験で、投票先を間違えたと反省したら、次の選挙で改めてください。一人の力は小さくても、その積み重ねがこの国の政治をつくっているという責任感を忘れないでください。

 <津田大介さん> とりあえず女性に入れる、でもいい。そこから少しずつ考えていくことで、自分の中に判断基準が生まれる。未来とか希望を、きちんと自分の言葉でしゃべっている人に1票を入れていくと、政治も世の中も変わっていく。悔いのない選択をしてください。

 

 ◇18歳、19歳のみなさんとともに参院選について考える「Voice1819」を始めます。ツイッターで@asahi1819をフォローしてください。寄せられた声は、日曜のフォーラム面で26日から紹介します。

 ◇構成・岡田慶子、写真・関田航
    −−「18 私たちも投票します:最終回、復習します AKBと考える」、『朝日新聞』2016年06月19日(日)付。

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