覚え書:「悩んで読むか、読んで悩むか 「悪意」にのみ込まれず、怖がらず 吉田伸子さん [文]吉田伸子(書評家)」、『朝日新聞』2016年09月18日(日)付。
-
-
-
- -
-
-
悩んで読むか、読んで悩むか
「悪意」にのみ込まれず、怖がらず 吉田伸子さん
[文]吉田伸子(書評家) [掲載]2016年09月18日
よしだ・のぶこ 61年生まれ。書評家。「本の雑誌」の編集者を経てフリーに。著書に『恋愛のススメ』。
■相談 バイト先の同僚から陰口を言われる
ファミレスで1年、現在はスーパーでアルバイトをしています。当たり障りのない関係を続けているのに、なぜかいつも同僚の一人から、ある日を境に陰口を言われるなど、当たりの厳しさを感じています。本人に直接「何で?」と聞くのが怖いです。他の同僚からの対応はいつもと変わりません。これから就職するのに、また同じことがあると思うと不安になります。
(千葉県、女子大学生・21歳)
■今週は吉田伸子さんが回答します
謂(いわ)れのない陰口、たとえ身に覚えがなくても凹(へこ)みますよね。かくいう私は、最初に勤めた編集プロダクションの同僚から「いい年をして『Olive』を読んでいる」というだけで嫌われた経験があります。二十歳を超えた人間が少女雑誌に夢中になるなんて馬鹿じゃないの?というわけです。
世の中には、そんなこともあるのです。多分それが俗に言う「馬が合わない」ということなのだ、と今なら思えるし、そっちこそいい年して挨拶(あいさつ)も無視するなんて大人げない、アホか?と思えますが、渦中にいる時はしんどいし、つらいですよね。お気持ち、分かりますとも!
そんなあなたに読んでみて欲しい本を三冊選んでみました。朝比奈あすかさんの『少女は花の肌をむく』、吉川トリコさんの『光の庭』(光文社、1944円)、吉野万理子さんの『いい人ランキング』(あすなろ書房、1512円)です。この三冊に共通するのは、少女たちが隠し持つ「悪意」を描いていることです。
『少女は〜』は、十歳の少女たち(とその十年後)のグループ意識や、そこに異性への想(おも)いが絡んでくることでこじれていく複雑な心理が丁寧に描かれています。『光の庭』は、無限で無敵だと思えた高校生女子グループの十八年後、が描かれています。仲良しグループの、扇の要のようだった一人の死で変わっていったそれぞれの人生。友情と背中合わせのエゴ、女子どうしの微妙な力関係等々、読んでいてひりひりします。『いい人ランキング』は、主人公の中学生女子が、善良さを逆手に取られてピンチに陥る様が描かれています。三冊のなかでは、これが一番「悪意」にフォーカスした作品です。ただ、三冊とも、悪意に翻弄(ほんろう)されのみ込まれてしまうのではなく、“その先にあるもの”を描いていることが、お勧めポイント。
最後に一つだけ。誰かの悪意(やいじわる)は、あなた自身の良さを減らしたり損ねたりすることはできません。なので、大丈夫。人間関係を怖がりすぎないでね。
◇
次回(10月2日)は歌人の穂村弘さんが答えます。
◇
住所、氏名、年齢、職業、電話番号、希望の回答者を明記し、郵送は〒104・8011 朝日新聞読書面「悩んで読むか、読んで悩むか」係、Eメールはdokusho−soudan@asahi.comへ。採用者には図書カード2000円分を進呈します。吉田さんと穂村さん以外の回答者は次の通り(敬称略)。石田純一(俳優)、荻上チキ(評論家)、斎藤環(精神科医)、サンキュータツオ(学者芸人)、壇蜜(タレント)、三浦しをん(作家)、水無田気流(詩人)、山本一力(作家)。
−−「悩んで読むか、読んで悩むか 「悪意」にのみ込まれず、怖がらず 吉田伸子さん [文]吉田伸子(書評家)」、『朝日新聞』2016年09月18日(日)付。
-
-
-
- -
-
-
http://book.asahi.com/reviews/column/2016092300006.html