覚え書:「若者が政治を詠んでみた 歌人・永田さん、短歌を分析」、『朝日新聞』2016年06月22日(水)付。

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若者が政治を詠んでみた 歌人・永田さん、短歌を分析
大村治郎2016年6月22日 

短歌を切り口に現代の若者について語る永田和宏さん=京都市北区、波多野陽撮影
 今回の参院選では18、19歳も投票できる。今、若者たちは政治や社会をどのように見て、考えているのか。歌人で「朝日歌壇」選者でもある永田和宏京都産業大教授(69)に、短歌を切り口に語ってもらった。

 永田さんが選者の一人を務める宮崎県延岡市の「若山牧水青春短歌大賞」。今年、佳作入選作品に選ばれた短歌の中に、高校生の詠んだ歌があった。

 十八歳で参政権が来るという日本の政治担う重さよ(栗原裕也)

 安保法案合意なくして採決し我らに語る民主主義とは(藤田拓実)

 これらの歌を見た永田さんは「18歳から選挙権を得られるようになり、政治は自分たちと関係ないんだと思っていた若い人たちが、そこからどう抜け出すかが問われている」と話す。

 やはり永田さんが選者の「NHK全国短歌大会」では、こんな歌が大賞に選ばれた。

 「デモに行く」会のなかばで立つ人に会費をもらう幹事のわたし(古田香里)

 「これは学生の歌ではないが、例えば飲み会の途中でデモに行くという、そんな運動が起こりつつある」と感じた。組織で動き、1人でデモに行くことはほとんどなかったという自らの学生時代と比べて、「学生が個人で動く。ツイッターなどで個人と個人がつながりあえる。組織の窮屈さがなく、風通しがいい」と評価する。

 その一方で、大学で日々学生と向き合っていて、「18歳選挙権が空振りになることが怖い」とも思う。

 問題と考えるのは、日本の高校までの教育だ。「すべての問いには答えがあり、しかもたった一つの正解があることを前提にした教育を受けてきた若い人たちは、誰かが正しいことを知っていると思っている。『先生、誰に投票したらいいの?』と聞くことになりかねない」

 だからこそ、大学教育が大切と考える。「誰も答えを知らないこと、問題そのものを見つけることが大学の教育。ここまでわかっているが、ここから先はわかっていない、と気づくことが大事だ」

 人と違う意見を言い、自分で考えることを尊重する土壌を作る。その大切さを強調する。「かつて日本は戦争へ突き進んだ。そうならないように流されないで立ち止まって考えられるか。みんなが右を向いたら自分はいったんは左を向いてみよう、と考えることができるかが問われる」

 しかし、学生たちは期待するように動いてくれない。最近、永田さんは自らこんな歌を詠んだ。

 反駁(はんばく)より始末に悪い無関心 君らの時代のことだいいのか

 「政治、国の姿など自分たちには関係がない、と思っている学生が少なくない。それに、自分たちはそれほどの存在じゃない、と思っているのが歯がゆい」

 自分はしょせんこんなもの、と決めつける学生の冷めた雰囲気が気になり、こんな歌も詠んだ。

 先生は元気ですねと目が笑ふ元気で結構 怒れワカモノ

 こうした学生気質に一石を投じようと、永田さんは京産大で「マイ・チャレンジ」という企画を始めた。ノーベル賞受賞者山中伸弥さん(53)、将棋棋士羽生善治さん(45)らをゲストに招き、偉大な業績を残した人も悩み、不安を抱え、失敗もしたことを知ってもらうのが狙いだ。「今の学生たちは、彼らを自分たちとは違う世界の人たちだと言う。そういう気分が蔓延(まんえん)している」

 ただ、政治のことはよくわからないし、誰かがやってくれるだろう、という思いは若者に限らない。永田さんは自戒もこめ、こんな歌も詠んでいる。

 余計なことには関はりたくないといふ意識だれにもあればそれこそが怖い(大村治郎)
    −−「若者が政治を詠んでみた 歌人・永田さん、短歌を分析」、『朝日新聞』2016年06月22日(水)付。

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http://www.asahi.com/articles/ASJ6F5CJVJ6FPLZB013.html






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