覚え書：「憲法　現場から考える：中　有事を想定、進む民間動員」、『朝日新聞』2016年06月27日（月）付。

覚え書

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憲法　現場から考える：中　有事を想定、進む民間動員
2016年6月27日

安全保障をめぐる出来事と民間協力の法制／（１）重要影響事態法（安保法制で周辺事態法を改正）で想定される民間業者への協力依頼の内容／（２）武力攻撃事態法に基づいて協力を求められる主な民間の指定公共機関
　沖縄・那覇港の新港埠頭（ふとう）に２月上旬、陸上自衛隊の車両数十台が並んだ。北朝鮮による事実上のミサイル発射に備え、地対空誘導弾パトリオット３（ＰＡＣ３）を石垣島に配備するための関係車両だ。

　港までは自衛隊員が運転してきたが、民間船への積み込みは港湾運送許可を持つ地元の専門業者が担った。その１社に２０年以上勤める那覇市の清武政秀さん（４４）は「ここ４、５年、自衛隊の仕事が増えた実感がある。車両の運搬なら、仕事と割り切っている」。

　政府は中国を念頭に南西諸島防衛を強化している。港湾関係者によると、那覇港では２月、少なくとも約３００台の自衛隊車両が積み下ろされた。清武さんは過去にはＰＡＣ３の台車のハンドルを握ったことも数回あるが、有事では自衛隊の仕事を断るつもりだ。「戦争になれば港や空港が真っ先に狙われるから」

　だが、勤め先は武力攻撃事態法で国の「指定公共機関」とされる海運会社のグループ会社。有事では、指定公共機関は国との協力が「責務」と定められている。自民党の憲法改正草案は、９条で領土の保全に国民の協力を規定する。

　清武さんは言う。「『協力』と言っても実際は命令で強制されるかも。沖縄戦の時がそうだった」

　さらに踏み込んだ動きもある。防衛省は今年度、民間船員２１人を海上自衛隊の「予備自衛官補」に採用する予算を計上。有事で利用する民間フェリーの乗組員を確保するためで、訓練で予備自衛官となり、海上輸送に従事する。

　西日本の大型フェリー船員の男性（３１）は「今の自衛隊なら信用できそう」と話す。ただ、不安もある。太平洋戦争では国家総動員体制の下、民間船が国に徴用された。「戦没した船と海員の資料館」（神戸市）によると、計約１万５千の民間の船や浮桟橋が攻撃を受けるなどして沈められ、約６万人の船員が死んだ。その事実を知らない船員が増えている。「有事で国に協力するのは当然」という意見があることも気にかかる。

　男性は、自分は予備自衛官になってもいいとしたうえで、こう釘を刺した。

　「この国はかつて、協力した民間船員を見殺しにした。強制せず、裏切らないことが大前提だ」（工藤隆治、矢吹孝文）

　■Ｑ．国への協力、拒めない？

　Ｑ　憲法は国民に国を守るための協力を求めているの？

　Ａ　今の憲法にそうした規定はない。一方で自民党が２０１２年に発表した憲法改正草案は、前文で「日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り」とし、９条で「国は（中略）国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し」としている。

　Ｑ　自衛隊だけでは守れないのかな？

　Ａ　戦闘はもちろん自衛隊が担うけれど、関連するすべての活動を自前でまかなうのは難しいのが実情だ。例えば、南西諸島で緊張が高まった場合、本土の部隊や装備品、大量の物資を船で運ぶ必要がある。コストの問題もあり、「移動、輸送は民間に頼らざるを得ない」（自衛隊幹部）としている。

　Ｑ　仮に日本が危なくなったとき、どんな法律に基づいて民間に協力をあおぐことになるの？

　Ａ　まずは周辺事態法（現・重要影響事態法）。米軍を後方支援する目的で１９９９年にできた法律で、政府が民間に協力を依頼できるとする条項が盛り込まれた。２００３年に成立した武力攻撃事態法では、地方公共団体や「指定公共機関」になった民間業者は、国とともに必要な措置を行う責務があるとした。同法は、国民は「必要な協力をするよう努める」とも定めている。

　また、自衛隊法は自衛隊に防衛出動が出た場合に、限られた区域で医療や土木建築、輸送業者に業務従事命令を出せるとしている。

　Ｑ　国の要請に従わないと罰せられるのだろうか？

　Ａ　今は協力を断っても罰せられない。三重短期大学の三宅裕一郎教授（憲法学）は改憲草案が描く国と国民の関係に注目し、「国と国民は信頼し合い、協力するべきものという前提は、国への協力を拒みにくくする内面の強制力になる」と指摘する。

　Ｑ　戦時中には軍に協力した民間人がたくさん犠牲になったんでしょ？

　Ａ　確かにそうだ。ただ、元海上自衛隊呉地方総監の伊藤俊幸さんは「軍が圧倒的に民間より優位にあった戦前と現代とでは事情が違う」と話す。

　（其山史晃）
　　　　−−「憲法　現場から考える：中　有事を想定、進む民間動員」、『朝日新聞』2016年06月27日（月）付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12429292.html





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