覚え書:「【書く人】技術への純粋な情熱 『光炎の人』(上)(下) 作家・木内昇(のぼり)さん(49)」、『東京新聞』2016年10月09日(日)付。

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【書く人】

技術への純粋な情熱 『光炎の人』(上)(下) 作家・木内昇(のぼり)さん(49) 

2016年10月9日
 
 世の中で電気が使われ始めたころ、機械にみせられ技術者になった男の物語。それまでにない「便利なもの」が生み出される前向きな話のはずなのに、読むうちに一つの問いがぐるぐると頭をめぐりはじめる。<科学技術は、本当に人を幸せにするのだろうか>。「メッセージを伝えるために書いたわけではないのですが、自分の思いが出ているかもしれません」
 主人公は、徳島の貧しい農家に生まれた音三郎。小学校に通うこともままならなかったが、やがて街の工場に就職、さらに大阪から東京、旧満州へ。独学で道を切り開きながら技術者に成長していく。だが、戦争に向かう時代を背景に、その知識と情熱は思いもよらない形で利用される。「技術者の立ち位置はすごく難しいですよね。もしも自分の開発した技術を恒久的に使えるのが軍需産業だとしたら…。純真な人ほど、そちらに行くかもしれない」
 着想のきっかけの一つは、東日本大震災原発事故だった。当たり前のものと感じていた電気と、それを作る原発とはどういうものだったのか。「知らなすぎた」と痛感したという。「たとえば東電だけを責めて解決した気持ちになっても意味がない。もっといろんな要素が絡んで起きたこと。突き詰めて考えなくてはと思った」。人々の暮らしに電気が入ってきたころまでさかのぼった。
 電気関係の技術について、本や資料を調べながらの執筆は「まったく知識がなかったので本当に苦労しました」と笑う。専門家が読んでも破綻がなく、一般の読者にも難しくないよう描写に工夫を重ねた。
 物語が発する問いは、震災後の社会に向けられたものだ。「感傷的に書くことは絶対にやめようと思っていました。それだと、3・11がもう終わった思い出のようになってしまう」。技術開発が行き着く先に起こり得る厳しい現実を、高い熱量でつづる。「簡単に終わらせないものを書きたかった」
 これまでの作品でも、時代の転換点を生きる人の姿を追ってきた。明治初期の遊郭を舞台にした『漂砂のうたう』(直木賞)、櫛(くし)作りの職人を主人公にした『櫛挽道守(くしひきちもり)』(中央公論文芸賞ほか)…。「どんなに自分を保とうとしても、誰でも時代の影響を受けて生きている。その変化を見ていきたい」
 KADOKAWA・各一七二八円。 (中村陽子)
    −−「【書く人】技術への純粋な情熱 『光炎の人』(上)(下) 作家・木内昇(のぼり)さん(49)」、『東京新聞』2016年10月09日(日)付。

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