覚え書:「文庫この新刊! 福永信が薦める文庫この新刊! [文]福永信(小説家)」、『朝日新聞』2016年10月09日(日)付。

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文庫この新刊!
福永信が薦める文庫この新刊!
[文]福永信(小説家)  [掲載]2016年10月09日
 
(1)『ロレンザッチョ』 ミュッセ著 渡辺守章訳 光文社古典新訳文庫 1253円
(2)『短篇五芒星』 舞城王太郎著 講談社文庫 626円
(3)『論理パラドクス 論証力を磨く99問』 三浦俊彦著 二見文庫 756円
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 (1)戯曲は台詞(せりふ)だらけだ。ある意味、小説以上に過激である。メディチ家の好色な暴君を暗殺するテロリストが主人公。政治劇でありながらボーイズラブ風の恋愛劇でもある。思惑は錯綜(さくそう)し、「内面」は台詞の下から見え隠れする程度、感情は掴(つか)み難く厄介だが時に異様にピュアに響く。著者は「読ませる」芝居の名手。訳者は本作の上演経験を持つ、83歳の今も現役の演出家、仏文研究者。副音声のように時折入る注釈が演出家のツッコミのようで笑える。(2)著者の小説の一行目を読むのが好きだ。全く想像もしなかった言葉がそこにあるから。その一行目から始まる、一筆書きのような世界が本書の面白さ。「いる」と「いない」が繋(つな)がっているメビウスの輪のような五編。(3)鶏の卵からUFOの正体まで、哲学、論理学が繰り出す難問と答えはほとんど小説より奇なり。高度な屁理屈(へりくつ)、言葉の曲芸にも映る。同時に本書は我々が普段使う言葉の豊かな厳密さと向き合う鏡の役目も果たす。ゆえに現代日本の政治家諸君に一読を勧める次第。
    −−「文庫この新刊! 福永信が薦める文庫この新刊! [文]福永信(小説家)」、『朝日新聞』2016年10月09日(日)付。

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