覚え書:「悩んで読むか、読んで悩むか 記憶と共に「動いていく」時間を 壇蜜さん [文]壇蜜」、『朝日新聞』2016年10月16日(日)付。

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悩んで読むか、読んで悩むか
記憶と共に「動いていく」時間を 壇蜜さん
[文]壇蜜  [掲載]2016年10月16日

80年生まれ。テレビ・ラジオなどで活躍。エッセーや初の短編小説を収めた『泣くなら、ひとり』など。


■相談 突然の孫の死に、心がついていかない

 1年前、12歳の孫息子が交通事故で旅立ちました。突然の別れと“逆縁”のむごさにいまだ立ち直れません。頭では分かっていても、心がついていかないのです。順番を間違えたのね。おばあちゃんより先に行く馬鹿。彼の両親も同じような心境のはずです。心に響く本を紹介してください。
 (埼玉県、主婦・77歳)

■今週は壇蜜さんが回答します

 先(ま)ずは、心よりお悔やみを申し上げます。お辛(つら)い中、勇気をだして投稿してくださったお気持ちに応えられるようお話ししたいと思います。
 相談者さまには『ビッグ・オーとの出会い』を読んでいただけたらなと思います。三角形のかけら君が、最高の相手を待ちわびるのですが、ある日出会った「ビッグ・オー(大きな丸君)」に「今まで考えてもみなかったこと」を助言され、考え方を変えていくという、細い線で構成された大変シンプルな絵本です。この絵本はよく「将来」をいかに自分にとって心地よい方向に変えていくかは考え方次第で、確固たる「正解や真実」などない……という一例として解釈されます。しかし、この絵本の持つもう一つの特徴、「自分の考え方」がどんなものであるか、「自分の心地よさ」とは何であるかを気づかせてくれるきっかけは「偶然」や「見知らぬ者」が持っている可能性が高い、ということも知っていただきたいがゆえに、私はこの本を選びました。
 逆縁の衝撃や喪失感は消えることは無いでしょう。「時間が解決する」も他者が迂闊(うかつ)に言っていい言葉ではないのです。残された方々が「自ら思うこと」なのですから。私がお話しできる「出来るかも知れないこと」は、今は果てしなく広がってしまっている「お孫さんの生きた気配や物理的に残されたもの」を相談者さまの心にある「思い出部屋」に少しずつ動かし、記憶という開閉自在なドアをくっつける事ではないかと思います。これらは極めて抽象的ですが、具体的に行動に移すとすれば「印(しる)すと歩く」が助けとなるかもしれません。考えを溜(た)め込まないように気持ちを何かに綴(つづ)り、歩く。移動が叶(かな)わない方なら誰かに手助けしてもらうことも考えていただきたいです。何気(なにげ)ない出会いや言葉に触れ、自分もお孫さんの記憶と共に「動いていく」。生と死を線引きしない相談者さまだけの時間を感じるかもしれません。
 止まったままの心の時計、自らの手足で針を動かすことは大変難儀なことです。ビッグ・オーや私が相談者さまの手袋や靴下になれたなら。
    ◇
 次回は精神科医斎藤環さんが答えます。
    ◇
 ■悩み募集
 住所、氏名、年齢、職業、電話番号、希望の回答者を明記し、郵送は〒104・8011 朝日新聞読書面「悩んで読むか、読んで悩むか」係、Eメールはdokusho−soudan@asahi.comへ。採用者には図書カード2000円分を進呈します。
    −−「悩んで読むか、読んで悩むか 記憶と共に「動いていく」時間を 壇蜜さん [文]壇蜜」、『朝日新聞』2016年10月16日(日)付。

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http://book.asahi.com/reviews/column/2016101600014.html


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