覚え書:「文庫この新刊! 池上冬樹が薦める文庫この新刊! [文]池上冬樹(文芸評論家)」、『朝日新聞』2016年10月30日(日)付。
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文庫この新刊!
池上冬樹が薦める文庫この新刊!
[文]池上冬樹(文芸評論家) [掲載]2016年10月30日
(1)『あしあと』 勝目梓著 文春文庫 778円
(2)『はじめての短歌』 穂村弘著 河出文庫 562円
(3)『永遠の1/2』 佐藤正午著 小学館文庫 864円
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(1)は、92歳の認知症の女性の回想録「ひとつだけ」、亡き祖父の悔恨にみちた戦争画を巡る「秘儀」、ふしだらな女性が出会う本物の愛「あしあと」など10編を収めた秀作集。物語と技巧のあくなき追求、性の貪欲(どんよく)な探求、犯罪の優れた分析、人生の諸相の冷徹な観察など、勝目梓の長所がすべて詰まっている。
(2)は、いい短歌を具体的に指南する入門書的な講座の記録。改悪例も示すことで、言葉一つ一つの採用や置き方がいかに重要であるかを教えてくれる。そしてそれは同時に制度化された感受性の確認と解放にも繋(つな)がる。「生きる」と「生きのびる」ことの違いを語るくだりは秀逸。相変わらず目から鱗(うろこ)の穂村本だ。
(3)は、類いまれな小説巧者の1983年のデビュー作。「失業したとたんにツキがまわってきた」という名書き出しから始まる青春小説の古典だ。後のほれぼれするほどの名作たち(『Y』『アンダーリポート』『身の上話』)と比べるとやや冗舌ではあるものの、軽みと青春の輝きはいまもなお新鮮。
−−「文庫この新刊! 池上冬樹が薦める文庫この新刊! [文]池上冬樹(文芸評論家)」、『朝日新聞』2016年10月30日(日)付。
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http://book.asahi.com/reviews/column/2016103000004.html
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