覚え書:「街頭政治 SEALDsが残したもの:8 異論許さぬ空気と戦った」、『朝日新聞』2016年08月26日(金)付。
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街頭政治 SEALDsが残したもの:8 異論許さぬ空気と戦った
2016年8月26日
最後の記者会見で、記念写真に納まるシールズのメンバーたち=16日、東京都千代田区、関田航撮影
今月16日にあった解散会見で、SEALDs(シールズ)関西を立ち上げた寺田ともか(23)が語った。
「私たちが伝えたかったのは誰かに期待するのではなく、個人が自分の責任において行動することの必要性だった。普通の未熟な学生で、ヒーローみたいに社会を変えたいわけでも、完璧な運動体を作りたかったわけでもない」
メンバーは各地のデモや集会で名前を名乗り、自分の言葉で語った。中心メンバーの一人、山本雅昭(27)も「等身大の自分をさらけだすことは怖い。みんなそれと戦った」。
活動中、メンバーには批判や中傷が吹き荒れた。「死ね」「ゴミ」「売国奴」――。ネットに書き込まれた発信元は、ほとんどが匿名だった。参院選で野党統一候補の応援をした際、地方議員から「就職できなくなるぞ」と言われた女性メンバーもいる。
昨年9月に安全保障関連法が成立した後、中心メンバーの奥田愛基(あき)(24)のもとには殺害予告が届いた。「この社会で若者が政治的にイエス、ノーと言うことがこんなに大変なのか」。奥田は、異論を許さない社会の「空気」と戦ってきた1年3カ月を振り返った。
それでも諏訪原健(たけし)(23)は「何かを始められる『参加のプラットフォーム』ができた」と自負する。
おかしいと思ったらデモをやり、声を上げる。市民が争点を作りだす選挙運動のマニュアル。世代や職業、地域を超えた人たちのネットワーク。そして、新たな仕掛けも試みている。
安保関連法が成立した直後、奥田は上智大教授の中野晃一(46)に会いに行った。「中長期的にリベラルな視点から市民社会に提言し、情報発信をしていく市民のためのシンクタンクを立ち上げたい」
こうして昨年12月、シンクタンク「ReDEMOS(リデモス)」が発足した。参院選では、自由に応援演説やビラ配りができず、今の公職選挙法が市民の政治参加を阻んでいると感じた。中野は「市民が政治や選挙に関わる不当な規制が解消されれば、市民社会から出てくる新党もあり得る。政権の暴走を止めるため、どう市民社会が関わっていくことができるのか、リデモスで議論を深めていきたい」と話す。
参院選後の7月23日。新潟県湯沢町で開かれた野外音楽イベント「フジロック・フェスティバル」で、反核・反原発をトークやライブで訴える「アトミック・カフェ」に奥田が招かれた。ネット上では「音楽に政治、持ち込むな」と批判が湧き起こっていた。
奥田がマイクを握ると、客席にいた38歳の男性から「野党共闘? だったら、お前がやれよ。政治家として出れば」と罵声のような質問を浴びせられた。
「自分と違う意見の人と話すのは、面倒くさいことなんですよ」。奥田は続けた。「だけど、この面倒くさいようなものを乗り越えていかないと。民主主義って、違う意見のやつとどうやって一緒に生きていくのか。2、3年前だったら、俺もそこで座って聞いていた。周りの人や友達でいいんで、社会のこと、真剣にしゃべりませんか」
8月15日、シールズは声明を出して解散した。声明の最後は次の言葉で締めくくった。「終わったというなら、また始めましょう。始めるのは私であり、あなたです」=敬称略(藤原慎一)
−−「街頭政治 SEALDsが残したもの:8 異論許さぬ空気と戦った」、『朝日新聞』2016年08月26日(金)付。
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(街頭政治 SEALDsが残したもの:8)異論許さぬ空気と戦った:朝日新聞デジタル