覚え書:「街頭政治 SEALDsが残したもの:7 市民動かすノウハウ、形に」、『朝日新聞』2016年08月25日(木)付。

Resize4101


        • -

街頭政治 SEALDsが残したもの:7 市民動かすノウハウ、形に
2016年8月25日


野党統一候補の選挙事務所で「選挙マニュアル」を説明するシールズの山本雅昭さん(奥)=6月15日、徳島市、石松恒撮影
 参院選の公示を1週間後に控えた6月15日夕、SEALDs(シールズ)メンバーの山本雅昭(27)は徳島市内にある野党統一候補の選挙事務所にいた。約20人の陣営幹部が座るなか、パソコン用ソフト「パワーポイント」で作った選挙マニュアルがスクリーンに映し出された。

 「選挙を変える。市民が変える。今年の選挙の光景をどのように変えるか」

 山本はマニュアルに沿って説明を始めた。「これまでの選挙は政党やメディアが争点をつくり、市民は投票するだけで、すごく受動的。市民が能動的に関わり、政党と一体となって選挙と争点を作っていく」

 昨年の安全保障関連法に反対するデモに参加したのは全国で約100万人、2014年衆院選で野党に投票した人は約2800万人と想定。マニュアルには「この人たちが動かないと無党派も動かない」と記された。一般市民に応援してもらえるよう、各選挙事務所には「市民の窓口」を設け、担当者を置くことも提案した。

 「日本の政党は組織票を固め、無党派をどう上乗せするかと考える。市民を票としか思っていない。市民をどう選挙に巻き込んでいくかが勝負の分かれ目だ」。山本の説明する言葉は熱くなった。

 マニュアルは4月の衆院北海道5区補選の後、シールズ中心メンバーの奥田愛基(あき)(24)が「補選で試した選挙のノウハウを全部詰め込んだマニュアルを作りたい。それがシールズが最後に残せることなんじゃないか」と提案し、山本がまとめた。

 6人のメンバーが手分けして、全国に32ある1人区の野党統一候補の陣営を回った。九州のように分厚い保守地盤のある地域では、「いくら野党勢力を結集しても組織票には勝てない状況だった」とメンバーの一人、諏訪原健(たけし)(23)は力不足を認める。それでも、野党候補が勝利した選挙区では共闘を後押しした市民の存在があった。

 改選数6の東京選挙区でも変化があった。報道各社の情勢調査で、6番目の議席を争うとされた民進党候補・小川敏夫の事務所に7月、沖縄から来たというTシャツ姿の若者が現れた。

 ほかにも、選挙事務所に姿を見せたことのない若者や女性会社員らが「電話かけを手伝わせてください」と集まってきたのだ。慌てた陣営は急きょ電話回線を増やしたが、それでも数が足りなくなり、残りは携帯電話で間に合わせた。

 仕掛けたのは、小川事務所に常駐していた山本たちだった。「改憲勢力3分の2を阻止するには、東京選挙区で小川さんを負けさせてはならない」。フェイスブックやLINE、ツイッターといったSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を駆使して発信。不特定多数の市民に選挙への参加を呼びかけた。

 小川敏夫新宿事務所の事務局長、浅野克彦(41)はこう話す。「彼らは政党の関係者には分からない、普通の人に伝えるすべを知っている」

 ただ、参院選は野党の敗北だった。マニュアルには、支持獲得に向けて次のような点も列挙されていた。「(1)安保法制以外の生活のイシューにも取り組むことが必要(2)自分の問題だと思っていない人にも聞いてもらえるような取り組みが必要」。いずれも、シールズにとっては課題として残った。

 =敬称略

 (石松恒)
    −−「街頭政治 SEALDsが残したもの:7 市民動かすノウハウ、形に」、『朝日新聞』2016年08月25日(木)付。

        • -




(街頭政治 SEALDsが残したもの:7)市民動かすノウハウ、形に:朝日新聞デジタル

Resize4075

Resize3257