覚え書:「書評:子規と漱石 小森陽一 著」、『東京新聞』2016年11月27日(日)付。

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子規と漱石 小森陽一 著

2016年11月27日
 
◆写生文読み直し迫る
[評者]復本一郎=国文学者
 痛快な読後感を味わうことができた。書名「子規と漱石」に、すでに著者が本書で意図するところが鮮明に示されている。決して「漱石と子規」ではないのである。本書においては漱石が補助線のごとくに用いられている。著者の企ては、子規の「写生文」の読みなおし、つまり従来の一般的な読みへの疑義の提示である。それが見事に成功しており、著者の日本語そのものへの細心の注意を払っての手際のいい解読にわくわくさせられる。読者には、読み慣れているはずの子規の「写生文」がまったく異なる相貌を持つものとして示され、そして新解釈になるほどと納得させられることとなる。
 具体例を一つ。子規の「写生文」の中でもよく知られている明治三十一年作の「小園の記」。著者はこの文に登場する「老嫗(ろうう)」に注目し、「小園の記」が「老嫗」への追悼文であると指摘。その「深い哀悼を、文章の時間的構造による暗示的表現として子規は結実させている」と読む。もう一例、これも同じくよく知られている「明治三十三年十月十五日記事」。この「写実的」一文の魅力を「文章の書き手の時間的空間的位置の消去にある」と指摘、そのことが読者をして子規の意図した「山」の発見へと導く、とするといった具合。全体、漱石とのかかわりに目配りしつつの、子規作品の読みなおしを迫る一書である。
 (集英社新書・821円)
 <こもり・よういち> 1953年生まれ。東京大教授。著書『漱石を読みなおす』など。
◆もう1冊
 正岡子規著『獺祭書屋(だっさいしょおく)俳話・芭蕉雑談(ばしょうぞうだん)』(岩波文庫)。俳句革新のマニフェスト芭蕉再評価。注解・解説は復本一郎。
    −−「書評:子規と漱石 小森陽一 著」、『東京新聞』2016年11月27日(日)付。

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