覚え書:「書評:「戦後」はいかに語られるか 成田 龍一著」、『東京新聞』2016年11月27日(日)付。

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「戦後」はいかに語られるか 成田 龍一著  

2016年11月27日
 
◆戦争の受け止め方の変容
[評者]福間良明立命館大教授 
 昨今の戦争映画を眺めてみると、「祖父−孫」間の継承が主題化されていることに気づく。『永遠の0(ゼロ)』(山崎貴監督、二〇一三年)や『男たちの大和』(佐藤純彌監督、二〇〇五年)では、孫が祖父の体験を受け止め、その思いに共感する場面がちりばめられている。だが、半世紀ほど前の映画では、世代間の断絶のほうが際立っていた。『肉弾』(岡本喜八監督、一九六八年)や『あゝ決戦航空隊』(山下耕作監督、一九七四年)では、若い世代の無理解への苛立(いらだ)ちが描かれている。
 では、なぜ、こうした描写の変化が生じたのか。そこに戦後の社会変容や世代構成の変化が、どう関わっていたのか。「戦争・戦後の語られ方」を多角的に考察した本書は、これらの問いを解く糸口を指し示してくれる。
 興味深いのは「戦後第一世代」(一九四〇〜六〇年代生まれ)と「戦後第二世代」(七〇年以降生まれ)の対比である。親から直接、戦争体験を聞くことのできた第一世代と異なり、第二世代は学校教育やメディアを通して戦争のイメージを形作ってきた。祖父母から聞くこともあっただろうが、父子がときにぶつかり合うような状況とは恐らく異質であっただろう。戦争非体験者の間においても「戦争を受け継ぐ体験」は世代によって大きく異なる。
 とはいえ、後年の世代になるほど往時の時代を理解できないというわけでもない。本書が指摘するように、「戦争」から距離をとれる分、先行する世代が自明視していたり不問に付してきたことを直視し、歴史像を塗り替える議論も、少なからずなされている。
 「戦争・戦後の語られ方」への著者の関心は<いま>の問題にも根差している。「<いま>との緊張関係で歴史を論じ、歴史的な出来事を補助線とすることによって、<いま>の位相を解析する」−こうした「歴史批評」は、戦後いかに紡がれてきたのか。歴史を問うことが現在を捉え返すことであることに気づかせてくれる良書である。
 (河出ブックス・1512円)
 <なりた・りゅういち> 1951年生まれ。日本女子大教授。著書『戦後史入門』など。
◆もう1冊 
 米田佐代子ほか編著『ジェンダー視点から戦後史を読む』(大月書店)。憲法制定過程、地域社会、平和などを捉え直す研究者らの論集。
    −−「書評:「戦後」はいかに語られるか 成田 龍一著」、『東京新聞』2016年11月27日(日)付。

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