覚え書:「文豪の朗読 安岡章太郎「アメリカ感情旅行」 リービ英雄が聴く [文]リービ英雄(作家)」、『朝日新聞』2016年11月06日(日)付。

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文豪の朗読
安岡章太郎アメリカ感情旅行」 リービ英雄が聴く
[文]リービ英雄(作家)  [掲載]2016年11月06日

安岡章太郎(1920〜2013)。神奈川近代文学館前で(1992年)
 
■どきっとさせる洞察とおおらかさ
 安岡章太郎はまさに日本の戦後文学の中で巨大な存在だったが、どの国の大作家もそうであるように、その文体がある種の「人格」となっている。そして洋の東西を問わず、大作家ならさまざまなジャンルに行き渡り、フィクションの中にもノンフィクションの中にも、本格的な文芸作品にも一見軽めのエッセイや紀行文にも、そのような「人格」がかならず現れる。
 思想やイデオロギーを直接に語らない安岡氏の文学者としての「人格」はきわめておおらかで、しかもディテイルに対してはかぎりなく敏感である。どのジャンルの中にも二〜三ページごとに読者がどきっとするような、世界を新たに見いだす洞察に至るのである。
 そのことが一貫して、近代日本独自の「家族の中の私」を書きつくした「海辺の光景」についてもいえるし、その近代日本に多大な影響を与えた大陸国を日本語の中で再発見した「アメリカ感情旅行」についてもいえる。
 私小説の中の四国であろうが、ノンフィクションの中のケンタッキーであろうが、やわらかさの中からするどさが滲(にじ)み出て、あらゆるスノビズムとマンネリ化を排除した文章だからだろう、半世紀前の日本と米国を語るその「声」が新しい。
 五カ月あまりのアメリカ滞在の最後の日をつづった文章の朗読を聞いても、文体の「声」と作者の実際の声には隔たりを感じない。文体にも声音にも無理も気取りも一切なく、どちらもおちついている。ナッシュヴィルの日常生活の記録なのだが、「アメリカ」をとらえた数々の鮮やかなイメージを通して、けっきょくその風景の奥へ入りきれない自分の心情を表す。にもかかわらず最後には、人間は同じである、という結論に達する。その矛盾に耐えつつ現実の世界に密着取材する「私」の声は、最後までおおらかで、しっかりしているのである。
    ◇
 1960年代に発表された朝日新聞が所蔵する文豪たちの自作の朗読を、識者が聴き、作品の魅力とともに読み解きます。

■聴いてみる「朝デジ 文豪の朗読」
 朝日新聞デジタルでは、本欄で取り上げた文豪が朗読する肉声の一部を編集して、ゆかりの画像と共に紹介しています。元になった「月刊朝日ソノラマ」は、朗読やニュースなどを収録したソノシート付きの雑誌です。録音にまつわるエピソードも紹介しています。特集ページは次の通りです。
 http://www.asahi.com/culture/art/bungo-roudoku/
    −−「文豪の朗読 安岡章太郎アメリカ感情旅行」 リービ英雄が聴く [文]リービ英雄(作家)」、『朝日新聞』2016年11月06日(日)付。

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http://book.asahi.com/reviews/column/2016111000003.html








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