覚え書:「リレーおぴにおん 本と生きる:4 言葉を学んで自分磨きたい 三宅宏実さん」、『朝日新聞』2016年09月13日(火)付。

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リレーおぴにおん 本と生きる:4 言葉を学んで自分磨きたい 三宅宏実さん
2016年9月13日

三宅宏実さん  
 20代の半ばまで、本はほとんど読んでいません。すぐ眠くなっちゃって。

 母から薦められた本で変わりました。道尾秀介さんの小説「向日葵(ひまわり)の咲かない夏」です。怖い話なんですが、「次、どうなるの?」と、一気に最後まで読みました。一冊を読み通せたのは、ほぼ初めてです。集中して読書に没頭するという経験が楽しかった。言葉に興味がわきました。

 2008年の北京五輪でメダルを逃して、「自分を知らないと勝てない」と。父や母、周りはサポートしてくれますが、バーベルを挙げるときは1人です。自分と向き合う必要性を感じていた時期でした。それまでは自分から目を背けていましたが、自己分析のためにノートをつけ、練習メニューも自分で考えるようになりました。そうしたら記録が急に伸びました。心技体が整い始めた。読書に目覚めたのは、そういうタイミングでした。

 言葉を学んで、もっと自分を磨きたい。アスリートに限りません。一流の人になるには、どうすればいいのか。人に会って話すことで学ぶこともありますが、本に探しに行く方が、自分に合った答えが見つかる気がします。それぞれの本に、響くワードが隠されています。今年からは、本のタイトルや著者とともに、響いた言葉をメモ帳に書き留めるようにしています。

 「一日一生」という、天台宗大阿闍梨(だいあじゃり)の酒井雄さい(ゆうさい)さんの本で出会った言葉が、「1日を一生と思って生きる」です。いつ何があるかわからないからこそ、1日を大切にしたい。練習でも、試合でも、その日全力でやりきることの大切さを学びました。どんな結果になっても悔いは残らない。言葉に支えられている、と感じています。

 北京五輪の前からは想像もできませんが、いまでは読書にのめり込む時間が好きです。人間は変われます。本当に変わりたいと思ったときこそ、力が出るのではないでしょうか。

 合宿や遠征先でも、時間があれば本屋に行きます。活字を追うのはつらい日もあります。そんなときも、色彩とかアロマテラピーの本で、集中力などを高める手法が見つかる。世界が広がれば、競技にプラスになるという思いがありますね。リオデジャネイロに発つ成田空港でも、3冊買いました。

 自分を探すために、本屋に行くのかな。私は何をしたいんだろうと思っていたり、自信がなかったり。軌道修正をするために行って、ベストセラーの棚から始まって本を選んで回る。心が動くタイトルやジャンルには、心理状態が反映されます。本屋はそれを確かめる場所にもなります。

 (聞き手と撮影・村上研志)

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 みやけひろみ 重量挙げ五輪メダリスト 1985年生まれ。2004年アテネから五輪4大会に連続出場し、12年銀、16年銅。「いちご」所属。手にする「夢をかなえるゾウ」は、お気に入りのシリーズ。
    −−「リレーおぴにおん 本と生きる:4 言葉を学んで自分磨きたい 三宅宏実さん」、『朝日新聞』2016年09月13日(火)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12555476.html





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