覚え書:「文庫この新刊! 池澤春菜が薦める文庫この新刊! [文]池澤春菜(声優・コラムニスト)」、『朝日新聞』2016年12月11日(日)付。
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文庫この新刊!
池澤春菜が薦める文庫この新刊!
[文]池澤春菜(声優・コラムニスト) [掲載]2016年12月11日
(1)『夜の庭師』 ジョナサン・オージエ著 山田順子訳 創元推理文庫 1253円
(2)『死後の恋 夢野久作傑作選』 夢野久作著 新潮文庫 680円
(3)『伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ』 ルイス・パジェットほか著 ハヤカワ文庫SF 1058円
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今回は怖い本を2冊、そして怖くない本を1冊。
史実を元にした(1)は、果たして現実の恐怖譚(たん)なのか、空想の恐怖譚なのかわからないままぐいぐいと進んでいく。両親と離ればなれになってしまった幼い姉弟がようやく見つけた奉公先は謎と闇に満ちていた。最後に姉が悟る、物語と嘘(うそ)の違いが胸に迫る。
(2)夢野久作と言えば、世紀の奇書『ドグラ・マグラ』が有名だが、私は短編も推したい。表題作の巧みさ、美しさ、自身が住む田舎での見聞や新聞記事から集めた「いなか、の、じけん」の現実ならではの恐ろしさ、そしてデビュー作「あやかしの鼓」の物狂おしさ。人の暗部を煮詰めた1冊。
SF界の名翻訳家にして名ナビゲイター伊藤典夫が惚(ほ)れ込んだ傑作を集めた(3)。翻訳文学は、翻訳家の存在がとても大きい。名著も訳次第ではとても読めない代物になり得る。この人の選ぶ本なら安心、間違いなくそう思わせてくれる絶大なる信頼感。SF食わず嫌いの人こそ、目利きの案内で、ぜひ第一歩を。
−−「文庫この新刊! 池澤春菜が薦める文庫この新刊! [文]池澤春菜(声優・コラムニスト)」、『朝日新聞』2016年12月11日(日)付。
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http://book.asahi.com/reviews/column/2016121100004.html
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