覚え書:「文庫この新刊! 池上冬樹が薦める文庫この新刊! [文]池上冬樹(文芸評論家)」、『朝日新聞』2016年12月04日(日)付。
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文庫この新刊!
池上冬樹が薦める文庫この新刊!
[文]池上冬樹(文芸評論家) [掲載]2016年12月04日
(1)『ありふれた祈り』 ウィリアム・ケント・クルーガー著 宇佐川晶子訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 1145円
(2)『妻への祈り 島尾敏雄作品集』 島尾敏雄著 梯久美子編 中公文庫 1188円
(3)『棺の女』 リサ・ガードナー著 満園真木訳 小学館文庫 1048円
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(1)は、家族の悲劇を回想する青春ミステリー。牧師の父親、芸術家肌の母親、音楽の才能に恵まれた姉、吃音(きつおん)症の弟とともに幸福な日々を送っていたフランクが様々な死を通して叡知(えいち)を身につけていく。事件後から現在までを語るエピローグは、生と死が綾(あや)なす人生の妙を高らかに謳(うた)いあげていて極めて印象深い。
(2)は、夫婦愛の地獄を描く『死の棘(とげ)』の妻ミホの姿に焦点をあてた作品集。どこまでも狂いながら夫を追い詰める妻と真摯(しんし)に向き合う夫(「われ深きふちより」)から穏やかな日々(「日の移ろい」)まで。荒涼とした、でもそれこそが愛の果ての幸福であるかのような美しさがある。
(3)は、誘拐・監禁された女性がいかに精神的かつ肉体的に苛(さいな)まれ、自ら進んで異常犯罪者たちを狩るしかないかを克明に捉えたサスペンス。少女時代の無垢(むく)さを二度と取り戻せない娘と、それを見守るしかない母親とのラストの対話が胸に迫る。絶望的に悲しく、辛(つら)く、切なく、そして温かい。慟哭(どうこく)必至の感動作だ。読むべし!
−−「文庫この新刊! 池上冬樹が薦める文庫この新刊! [文]池上冬樹(文芸評論家)」、『朝日新聞』2016年12月04日(日)付。
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http://book.asahi.com/reviews/column/2016120400003.html