覚え書:「科学の扉 撃退!サイバー攻撃 AIで対抗…新たな手法続々」、『朝日新聞』2016年09月18日(日)付。

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科学の扉 撃退!サイバー攻撃 AIで対抗…新たな手法続々
2016年9月18日


撃退!サイバー攻撃<グラフィック・下村佳絵>
 企業や公共機関を狙うサイバー攻撃が後を絶たない。次から次へと新たなコンピューターウイルスが生まれ、大量の情報流出といった被害も出ている。こうした状況の中、人工知能を活用するなどして未知のウイルスの攻撃を迅速に発見し対処するといった、新たな手法が出てきている。

 サイバー攻撃に使われるコンピューターウイルスは次々と新種が出てくる。発見や調査は人手だけでは困難で、人工知能(AI)への期待が高まっている。

 IBMは今年5月、同社のAI「ワトソン」を活用してサイバー攻撃の種類や内容を特定する新システム「Watson for Cyber Security」を発表した。

 同社によると、セキュリティーに関する研究論文は毎年約1万本が発表され、記事も毎月6万件以上が発行される。このシステムはウェブ上にある記事や論文などをワトソンが自動で収集し、解析する。学習した知識をもとに、機器に残るシステムログ(記録)などを分析し、攻撃されたかどうかや、どういう脅威となるかを技術者に示す。

 日本IBMの縣(あがた)和平・アソシエイトパートナーは「誰かが調査済みの脅威なら、すでにワトソンが学習している可能性が高く、素早い対応ができるようになる」と自信をみせる。年内には試供版を国内企業に紹介するという。

 パソコンをAIが守る製品も登場した。米セキュリティー企業「Cylance(サイランス)」は、ウイルスによる攻撃を「9割以上防げる」と触れ込む。

 従来のセキュリティーソフトは既知のウイルスをリスト化しておき、インターネットなどの外部から来たファイルをリストと照合して、ウイルスを発見、駆除してきた。だが、リストを更新しないと、感染を許す恐れが高いのが課題だった。

 サイランスは、これまでに発見されたウイルスや正常なファイルの内部構造をAIが学習し、新たなウイルスかどうかを予測する。日本で同社の製品販売をする日立ソリューションズでは「ウイルスかどうかをDNAで判別するようなイメージ。頻繁なアップデートをしなくても未知のウイルスを除去できる技術だ」とする。

 ■「通信の道」可視化

 「AIによる対策は正しい方向性だが、全てが解決する訳ではない」。情報通信研究機構(NICT)サイバーセキュリティ研究室の井上大介室長はこう話す。

 NICTが開発するのは、ウイルス感染した機器の不正通信などを判断しやすくする「NIRVANAニルヴァーナ)改」だ。目には見えないネットの世界を立体的な地図のように表示。パソコンが社内の機器を経由して、外部のウェブサイトを閲覧するといった「通信の道」を可視化することで、正常ではない通信への対処がしやすくなる。

 ニルヴァーナ改は、国内企業「FFRI」のセキュリティー対策ソフトと密な連携が可能だ。パソコン内で不審な動作を引き起こすプログラムの特定までも、詳細に調査できる。

 昨年、ウイルスを仕込んだメールが日本年金機構のパソコンに送られ、約125万件の個人情報が流出。機構が流出を疑いネット遮断するまでに2週間ほどかかった。井上室長は「ニルヴァーナ改とそれに連携する対策ソフトがあれば、被害がここまで大きくならなかった可能性が高い」とする。

 ■国家資格を新設へ

 セキュリティー対策の仕組みやシステムがいくら充実しても、それを活用する人材がいなければ意味がない。経済産業省による2016年の調査によると、国内で約13万人の情報セキュリティー人材が不足している。今後、さらに不足すると予測する。

 そのため、政府はサイバーセキュリティーに関する国家資格「情報処理安全確保支援士」を新設する。合格後にも講習を義務化し、最新の技術動向の把握や知識の維持を狙う。17年から試験を始め、20年までに資格取得者を3万人にするのが目標だ。

 若手育成への活動を始めた大学もある。東京大学は昨年、技術開発や人材確保のための「セキュア情報化社会研究寄付講座(SiSOC−TOKYO)」を設立し、東京都内に演習施設を整備した。今後、他大学や企業への設備の貸し出しも検討するという。満永拓邦特任准教授は「今後5年で1千人に設備を利用してもらうのが目標。IoTなど新分野のセキュリティーについても調査し、教育と研究の両輪で取り組んでいきたい」と話す。(山崎啓介)

 ◇「科学の扉」は毎週日曜日に掲載します。次回は「オプジーボの軌跡」の予定です。ご意見、ご要望はkagaku@asahi.comメールするへ。
    −−「科学の扉 撃退!サイバー攻撃 AIで対抗…新たな手法続々」、『朝日新聞』2016年09月18日(日)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12565081.html





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