覚え書:「書評:プリズン・ブック・クラブ アン・ウォームズリー 著」、『東京新聞』2017年01月08日(日)付。

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プリズン・ブック・クラブ アン・ウォームズリー 著 

2017年1月8日
 
◆感動の嘘 見抜いた受刑者
[評者]永江朗フリーライター
 読書会に参加したことはありますか? 評者は最初、他人と本の感想を語り合うなんていやだと思っていたのですが、参加してみると面白くて、時間があっというまに過ぎます。同じ作品でも、人によって受け取り方や考えることが違うのですね。
 本書は刑務所内の読書会についてのノンフィクションです。カナダ人ジャーナリストである著者は、友人に誘われ、いやいやながら刑務所内の読書会運営を手伝います。なぜ尻込みしていたかというと、彼女は強盗に遭(あ)った苦い思い出があるから。おっかなびっくり始めた読書会ですが、回を重ねるごとに著者も夢中になっていきます。毎月一冊、一年半で約二十冊を読んだ本はスタインベック怒りの葡萄(ぶどう)』やO・ヘンリー『賢者の贈り物』などの古典から、アトウッド『またの名をグレイス』のような現代作品までさまざま。
 受刑者たちの反応が興味深い。ひとりの発言が他の人の発言を引き出し、思わぬ展開を見せることもあり、まさに読書会の醍醐味(だいごみ)です。
 鋭い読みをする受刑者もいます。『スリー・カップス・オブ・ティー』という、アメリカの慈善家の著書を取り上げたときのこと。当時、この本はたいへん評判になり、北米中が感動の嵐に包まれました。オバマ大統領がこの慈善家の活動に十万ドルも寄付したほどです。
 みんなが口々に感動を語っているなか、グレアムという受刑者はこの本の矛盾点を指摘します。すると読書会の六週間後、スキャンダルが明るみに。例の本は虚偽や誇張に満ちており、寄付金を流用していたのでした。ちなみにグレアムは薬物の密売と恐喝の罪で十七年の刑に服しています。
 読書会のいいところは、たんに本を読むだけでなく、自分と違う考えをする他人がいると実感できること。違うからこそ、驚きがあり、発見がある。著者にとっても塀の中の読書会はすばらしい経験になっています。
(向井和美訳、紀伊國屋書店 2052円)
 <Ann Walmsley> カナダ・トロント在住のジャーナリスト。
◆もう1冊 
 A・スタインバーグ著『刑務所図書館の人びと』(金原瑞人ほか訳・柏書房)。刑務所図書館に勤めた名門大学出の男の体験実録。
    −−「書評:プリズン・ブック・クラブ アン・ウォームズリー 著」、『東京新聞』2017年01月08日(日)付。

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