覚え書:「【東京エンタメ堂書店】「酒」つくり手のドラマ 人間味に酔う」、『東京新聞』2017年01月09日(月)付。

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【東京エンタメ堂書店】

「酒」つくり手のドラマ 人間味に酔う

2017年1月9日

 今年の正月休みは短かった…。おとそ気分が抜けないそこのあなた、飲みきれなかった分は本で味わってみてはいかがでしょう。若手の蔵元や醸造家が、日本酒やワインの「本物の味」を追求してやまない昨今。つくり手の地道な闘いが、美味を誕生させているのだと実感できる本があります。その人間味に酔ってしまいそう。うぃー、ひっく。 (出田阿生)
 お正月といえば日本酒。醸造用アルコールや人工調味料などを一切使わず、米と米こうじ、水だけでつくるのが「純米酒」だ。今でこそ当たり前だが、実は戦後しばらく途絶えていた。
 混ぜ物が多い日本酒は甘ったるくて悪酔いする。そのため日本酒離れが進んでいた一九八〇年代、埼玉・蓮田の小さな酒蔵が、全国に先駆けてすべての酒を純米に切り替えた。その酒蔵、「神亀(しんかめ)酒造」をルポしたのが『新版 闘う純米酒神亀ひこ孫物語』(平凡社、一四〇四円)だ。
 税金は酒の出荷時にかけられる。そのため地元の税務署は出荷に長期間かかる純米酒づくりを嫌い、蔵には猛烈な圧力がかけられた。酒蔵の七代目はストレスで一時失明しながらも、酒文化を守る一念を貫いた。
 著者の上野敏彦さんは、蔵に百回以上通い、七代目の話を聞いた。「メモを取ろうとすると口をぴたっと閉ざす。仕方ないので腕や足にこっそり書いた。いざ出版となったら『俺が死んでからにしてくれ』と言われた」と苦笑する。上野さんも負けじと、約束をすっぽかされた日は蔵をくまなく見て回った。七代目と著者、二人の何とも強烈な個性にひきつけられる。
 こんな歴史を経て、いまや若者や女性にも日本酒の愛好家が増えた。三十〜四十代の蔵主が、斬新で美味な日本酒を次々と醸している。実在する日本酒と酒蔵を漫画にした『いっぽん!!〜しあわせの日本酒〜』(集英社、原作・増田晶文、漫画・松本救助、既刊二巻、各六〇七円)を読めば、そんな各地の酒蔵の挑戦が分かる。
 日本酒が純米酒なら、ワインは純国産。輸入ワインを大量に混ぜたものが主流だった日本のワイン。「風土に合わないから無理」といわれたブドウ栽培を手掛けた若手の闘いを取材したのが、河合香織著『ウスケボーイズ 日本ワインの革命児たち』(小学館、一七二八円)。いまや世界に通用するワインを醸す四人の醸造家を追った。映画より劇的だ。
 前出の上野さんが宮崎・都農(つの)町のワイナリーを取材した『闘う葡萄酒(ぶどうしゅ)』(平凡社、二〇五二円)も併せてどうぞ。下戸の方でも楽しめること、請け合いです。
    −−「【東京エンタメ堂書店】「酒」つくり手のドラマ 人間味に酔う」、『東京新聞』2017年01月09日(月)付。

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