覚え書:「【書く人】ネット時代の真実とは 『クラウドガール』 作家・金原ひとみさん(33)」、『東京新聞』2017年01月22日(日)付。

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【書く人】

ネット時代の真実とは 『クラウドガール』 作家・金原ひとみさん(33)

2017年1月22日
 
 「美しい世界観の小説にしたいなという気持ちが最初にありました」。初の新聞連載が本になり、すっきりした表情でそう話す。「美しい」だけではない。現代の社会において「真実」とは何なのかという大きな問いを投げかける作品でもある。
 語り手は二人暮らしの姉妹。大学生の姉は、律義でしっかり者。高校生の妹は刹那的で危なっかしい。二人の視点を交互に登場させ、ミステリー的な手法も使いながら、二人の恋愛模様と家族にまつわる秘密を描く。鍵を握るのは、小説家だった母の死−。「大人になってもやけに仲がいい姉妹の関係に興味があったんです。兄のいる私とは、だいぶ違うなと」
 デビュー作「蛇にピアス」で芥川賞を受けたのは二〇〇四年。当時は、自身に近い存在として十代の若者の姿を描いた。今は、年齢的には少し距離ができたが、この世代を書くのが好きだとあらためて感じたという。「まだ何者でもない若者は、どう描くかも自由で楽しい」
 作品を通して浮かび上がるのは、インターネットの普及によって変質した世界そのものだ。ありとあらゆる情報があふれ、どこにいても誰とでも気軽にコミュニケーションがとれる環境の中で、私たちの現実のとらえ方が決定的に変わってきている。「どの情報を選び取るかで、認識に大きな差が出る。新しい時代に突入したという強い実感があります。それに合った武器を身につけなければいけない時期なのかも」
 その問題意識は「偽ニュース」という言葉が飛び交い、「ポスト真実」とも呼ばれる社会の状況とも響き合う。「スマホが一心同体で自分の中にある。その分、本来の力が弱まっているような身体の感覚もありますね」
 3・11の後、「変な雰囲気」の日本を離れ、フランスに住み始めた。「今の日本は、そのころのギスギスした感じは薄まったけど、震災が落とした影は、確実に残っている気がします」
 この五年、欧州各地でのテロや難民問題、シリアの内戦など、世界を揺るがすニュースに、日本にいた時とは異なる視点で接してきた。「外国人として見ていると、分からないこともあるとは思う。でも、実感を持って書ける状況にある。いつか小説で触れていきたいです」
 朝日新聞出版・一五一二円。 (中村陽子)
    −−「【書く人】ネット時代の真実とは 『クラウドガール』 作家・金原ひとみさん(33)」、『東京新聞』2017年01月22日(日)付。

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