覚え書:「文化の扉 デビッド・ボウイの魂 歪み・狂いに満ちた妖しさ」、『朝日新聞』2016年10月09日(日)付。

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文化の扉 デビッド・ボウイの魂 歪み・狂いに満ちた妖しさ
2016年10月9日
 
写真・図版
デビッド・ボウイの魂<グラフィック・白岩淳>
 
 これほど変化に富んだロックアーティストがかつていただろうか。デビッド・ボウイ。今年1月に69歳で亡くなるまで音楽の革新を続け、今なお影響力はとどまるところを知らない。ボウイは何を求め続けたのか。

 エッジの利いた初期の楽曲「チェンジズ」に象徴されるように、デビッド・ボウイ(1947〜2016)は「変幻自在の人」だった。どぎつい異星人のような「ジギー・スターダスト」、危ういまでに美しい「痩せた青白き公爵」……。演じたキャラクターは、どれも極端で鮮烈だった。

 1967年のデビュー作から2016年の最終作「★(ブラックスター)」まで、スタジオアルバムは28枚。時代ごとに音楽スタイルも外見も、変える傾向があった。音楽家、デザイナー、美術家、詩人らとの交流から、新発想をつかみ、表現の彩りを豊かにした。

 いま、大回顧展「DAVID BOWIE is」が世界を巡回中だ。ボウイの活動を映像や音声で立体的に伝える。伊ボローニャに展示を招聘(しょうへい)した会社代表フラン・トマシさんは「回顧展は、自叙伝を書くのを拒んだ彼の伝記のようなものだ」と話す。

 企画した英国立「ビクトリア・アンド・アルバート博物館」のキュレーター、ビクトリア・ブロークスさんは言う。「アート、デザイン、パフォーマンスのすべてを融合させた存在がデビッド・ボウイです」

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 ただ、ボウイの曲が聴かれ続ける秘密の一つは、70年代に磨き上げた楽曲構造にあるのだろう。「スペイス・オディティ」「ライフ・オン・マーズ?」など初期の名曲には、既にサイケデリックで、ただならぬ和音進行の妙がある。

 76年の退廃感漂う「ステイション・トゥ・ステイション」のころから、ジャーマン・エレクトロや、フィリップ・グラスら現代作曲家に急接近。「ロウ」「ヒーローズ」など実験性と芸術性の高い作品に結実する。

 先鋭的なリズム、パターン化した音型を反復させるミニマル・ミュージックの多用、破壊的なギター音。そこにボウイのスタイリッシュで暗鬱(あんうつ)な気分のボーカルが交錯。各部が独立して動きながら統一感を持つ、ポリフォニック(多声的)な重層構造になっている。

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 彼の音楽は同時代、後続のミュージシャンに甚大な影響を与えた。今年1月に悲報が流れると、ポール・マッカートニージミー・ペイジらの追悼が相次いだ。

 ボウイはアーティスト人生の中で、一貫して何をとらえようとしていたのか。

 79年2月号の音楽誌「ニューミュージック・マガジン」(現「ミュージック・マガジン」)で、音楽家坂本龍一さんがインタビューしている。ボウイは、現代の作曲家らについて触れ、どんな感覚に依拠して創作しているかについて、こう語った。

 「まったく普通の音で、ごくあたりまえの音楽なんだけれども、どことなく変だというような。とても合理的に思えることでもどこか歪(ゆが)んでいる……少しヒビ割れた鏡の中に物事を見ているようなものだ」(米原範彦)

 ■能に生かしたいスペクタクル デザイナー・プロデューサー、山本寛斎さん

 交流があったのは1970年代の数年間。当時は彼も私も新世界に向かって羽ばたこうとしていた「同志」だった。彼が来日すると、東京の自宅で接待した。バーベキューで野菜ばかり追加すると、げんなりしていましたね。

 根底に日本の伝統芸能の美意識を据えてステージ衣装をデザインしました。73年のニューヨーク公演で、衣装の「引き抜き」を演出すると大喝采。彼を通じ、私の魂が開花したように感じた。

 今、ボウイをテーマにして、私の真骨頂の「落差の大きいスペクタクル」が息づく新しい能の制作を模索しています。特定の人物をテーマにしようと思ったことはない。そう思わせるほどのスペクタクル感覚が、ボウイの魅力なのかもしれません。

 <訪ねる> デビッド・ボウイ大回顧展「DAVID BOWIE is」は2017年1月8日〜4月9日、東京・天王洲アイルの寺田倉庫G1ビルで開催。一般発売は28日から。チケットぴあ(0570・02・9111、午前10時〜午後6時)。

 <聞く> 今秋、注目のCD発売が相次ぐ。「ラザルス」は、生前最後にスタジオ録音した未発表3曲を収める。11月にリリースの「レガシー 〜ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・デヴィッド・ボウイ」は、1枚組みと2枚組みがあり、ボウイ作品のダイジェスト版だ。

 ◆「文化の扉」は毎週日曜日に掲載します。次回は「法哲学」の予定です。ご意見、ご要望はbunka@asahi.comメールするへ。
    −−「文化の扉 デビッド・ボウイの魂 歪み・狂いに満ちた妖しさ」、『朝日新聞』2016年10月09日(日)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12599777.html


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