覚え書:「文庫この新刊! 池上冬樹が薦める文庫この新刊! [文]池上冬樹(文芸評論家)」、『朝日新聞』2017年01月22日(日)付。

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文庫この新刊!
池上冬樹が薦める文庫この新刊!
[文]池上冬樹(文芸評論家)  [掲載]2017年01月22日
 
(1)『椎名誠 超常小説ベストコレクション』 椎名誠著 角川文庫 994円
(2)『木ずく燈籠(みみずくどうろう)』 小沼丹著 講談社文芸文庫 1620円
(3)『トワイライト・シャッフル』 乙川優三郎著 新潮文庫 594円
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 (1)は、風変わりで不思議な世界を描いた作品集。奇想天外の設定の作品(「ねじのかいてん」)もいいが、造語の洪水が物語の奔流を生み出す「みるなの木」「赤腹のむし」「こん飩(こんとん)商売」が素晴らしい。変な言い方になるが「造語のリアリズム」ともいうべき混沌(こんとん)たる(架空であるが)生々しい現実世界が圧倒的だ。
 (2)は、平穏な日常がしみじみと感得できる作品集。淡い付き合いのある友人・知人たちがいつのまにか亡くなることも事件にはならず平穏な日々に溶け込む。『懐中時計』『小さな手袋』ほど鮮やかではないけれど、人生の静かで確かな手触りが相変わらず愛(いと)おしい。特にラストの「胡桃(くるみ)」と「花束」は滋味に富み、再読・再々読にたえうる。
 (3)は、人生の局面を迎え、孤独・絶望・不安に佇(たたず)む者たちの内面を房総の四季とともにリリカルに捉えた作品集。物語は美しい叙情をたたえ、艶(つや)やかで官能的で、時に暗く沈んでいても、底には不思議な華やぎが覗(のぞ)く。豊かな文章と物語と人生観を味わえる稀有(けう)な短編集だ。
    −−「文庫この新刊! 池上冬樹が薦める文庫この新刊! [文]池上冬樹(文芸評論家)」、『朝日新聞』2017年01月22日(日)付。

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http://book.asahi.com/reviews/column/2017012200003.html


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