覚え書:「書評:ヤクザと憲法 東海テレビ取材班 編」、『東京新聞』2017年01月29日(日)付。

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ヤクザと憲法 東海テレビ取材班 編

2017年1月29日
 
排除の論理で、人権は
[評者]森達也=ドキュメンタリー作家
 二○一五年三月、中京圏を放送対象地域とする東海テレビが、「ヤクザと憲法」というタイトルのドキュメンタリー番組を放送した。被写体は大阪市西成区に本部を置く指定暴力団。二十七人の組員が、ドキュメンタリーの被写体だ。
 ヤクザが主役の映画は多い。テレビドラマも珍しくない。でもすべてフィクションだ。誰かが演じている。銃やナイフは小道具だ。だから安心して観(み)られる。だってホンモノは反社会的存在なのだ。
 ところが東海テレビの制作スタッフは、ホンモノのヤクザ一人ひとりを被写体にした。モザイクなどない。すべて素顔。そこに映し出されるのは、我々と同じように笑ったり泣いたり怒ったりする男たちだ。いや違いもある。彼らは銀行に口座を作れない。子供を保育園に通わせることもできない。車のローンも組めない。だから一人が言う。「これな、わしら人権ないんとちゃう?」
 暴対法が施行されたのは一九九二年。社会における排除の論理は年ごとに強くなり、これに呼応するように、人権の砦(とりで)であるはずの憲法も揺らぎ始めている。
 昨年「ヤクザと憲法」は同タイトルのドキュメンタリー映画として公開され、大ヒットを記録した。それが書籍になった。読みながら唖然(あぜん)とする。映像版よりもさらに踏み込んでいる。スタッフの身を案じたくなる。心配だ。でも必読だ。
岩波書店 ・ 1944円)
東海テレビ取材班> 取材班は制作者が阿武野勝彦、監督が〓方宏史。弁護士の安田好弘が寄稿。
◆もう1冊 
 廣末登著『ヤクザになる理由』(新潮新書)。元組員たちの証言をもとに、家庭や学校、仲間などが与える影響を探る。
※〓は、土にてん
    −−「書評:ヤクザと憲法 東海テレビ取材班 編」、『東京新聞』2017年01月29日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2017012902000171.html



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