覚え書:「教育格差、防ぐ支援の輪 無料塾、有志が個別指導」、『朝日新聞』2016年10月14日(金)付。

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教育格差、防ぐ支援の輪 無料塾、有志が個別指導
2016年10月14日

無料の塾に来た約20人の児童や生徒は、講師に教わりながら問題集を解いたり授業の予習をしたりしていた=9月、兵庫県西宮市
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 経済的に厳しい家庭の子どもたちを対象にした学習支援の動きが広がっている。親の収入が低いと塾や習い事の出費が少なくなる傾向があるといい、各地の支援団体が「教育格差」の解消を目指して工夫を凝らしている。

 兵庫県西宮市の市大学交流センターの一室で9月24日夜、約20人の中学生らが教科書や問題集を広げていた。NPO法人阪神つばめ学習会」が週2回開講している無料塾。清少納言の「枕草子」の暗唱や授業の宿題、英単語カード作りと、一人ひとりで勉強内容は違う。

 「この英文にhave to(〜しなければならない)を加えてみて」「2x+8xは何になる?」。大学生や元塾講師、翻訳家らのボランティアが生徒に声をかけていく。難しい問題があれば解き方のコツを教え、学習時間の2時間はあっという間に過ぎた。

 阪神つばめ学習会は同会理事長で会社経営の庄司知泰(ともひろ)さん(37)が「親の収入格差が子どもの学力格差になるのはフェアじゃない」との思いで昨年8月から始めた。現在は母子家庭や不登校経験のある中学生ら約25人が参加。教室は利用料が無料か格安の市の施設などを使い、講師は知り合いやインターネットなどを通じて集まったという。

 高校受験を控えた中学3年の男子生徒(14)は「普通の塾に通って親に金銭的な負担をかけたくない」と週に2回通う。

 庄司さんは「同じ思いを持った人と活動を広げ、いつかは自分たちのような無料塾がなくなるのが目標」と話した。

 ■夕食の提供も

 こうした学習支援などについて話し合おうと、「全国子どもの貧困・教育支援団体協議会」が主催するシンポジウムが9月11日、大阪市内で開かれた。

 東日本大震災で被災した宮城県石巻市を拠点に学習支援活動を続けるNPO法人「TEDIC」は、困窮世帯向けの市の委託事業で夜ごはんを提供している。門馬優代表理事は、子どもとの会話を通じて親の就労支援につながった事例を紹介し、「子どもの貧困の解消のためには、親も含めた多面的な支援が大事だ」と訴えた。

 関東を中心に活動し、困難を抱えた子どもたちに学習支援活動するNPO法人「Learning for All」は、ボランティアの学生講師に約50時間の研修や指導後の振り返りの場を提供。指導法以外に子どもとの接し方まで学んでもらうという。

 協議会の代表幹事を務めるNPO法人「さいたまユースサポートネット」の青砥恭代表理事は「学校や役所とも協力し、子どもたちが安心できる居場所を多くの地域で作っていく必要がある」と訴えた。(石原孝)

 ■塾費用など、親の収入により8倍差も

 文部科学省が2014年度に実施した調査によると、公立小中学校の児童・生徒の保護者が支払う子ども1人当たりの教育費のうち、学習塾や習い事などの学校以外の費用は平均で全体の6割強を占める。さらに、塾や参考書などに充てる費用を親の世帯年収(400万円未満と1200万円以上)で比べると、小学校で7.9倍、中学校で2.6倍の差があった。

 同省が実施している全国学力調査の結果を分析すると、年収の多い家庭の子ほど成績が良い傾向があるという。阪神つばめ学習会のような民間の団体のほか、自治体による学習支援の取り組みが増えている。厚生労働省によると、生活困窮者自立支援法のもとで学習支援事業を実施する自治体は昨年度の300から今年度は423にのぼるという。

 一方で、支援団体と学校・役所との連携強化や対象世帯の子どもの参加率、教える側の質をどう高めるかといった課題も指摘されるようになってきた。
    −−「教育格差、防ぐ支援の輪 無料塾、有志が個別指導」、『朝日新聞』2016年10月14日(金)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12606475.html





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