覚え書:「首相の答弁、正確? 「ファクトチェック」してみました 臨時国会中盤」、『朝日新聞』2016年10月24日(月)付。
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首相の答弁、正確? 「ファクトチェック」してみました 臨時国会中盤
2016年10月24日
首相の答弁 正しい?誤り?
「安倍1強」のもとでの臨時国会も中盤戦。白熱したやりとりを繰り広げる政治家の言葉は、確かな事実に基づいているのか。大統領選などで米メディアが積極的に取り組む「ファクトチェック(事実確認)」の手法を使って、安倍晋三首相の答弁を調べた。
■安保法制、触れた?
今国会は、与党が大勝したこの夏の参院選後、初の本格論戦の舞台だ。参院本会議の代表質問で、安全保障関連法について、国民への説明の不十分さを民進党議員に指摘された首相が答えた。
〈参院選において街頭演説等で、私は必ず必ず、平和安全法制(安保関連法)についてお話をさせていただきました〉
朝日新聞は参院選の期間中、取材した64カ所での首相の演説内容を確認した。「日本をしっかり守っていくために日本とアメリカがお互いに力を合わせることができるようになった」など、首相は序盤で毎回のように安保関連法の成立に触れ、理解を求めていた。
ところが、公示4日後に共産党政策委員長(当時)がNHKの討論番組で、防衛予算を「人を殺すための予算」と発言すると、共産や野党共闘の批判に力点を置くようになり、安保関連法に触れなくなった。結局、「平和安全法制」という言葉を出したのは20カ所。44カ所で出していなかった。
首相や大臣答弁の原稿を書くのは、主に官邸や各省庁の官僚たちだ。与野党の議員から事前に質問通告を受け、想定問答を作る。全体的に官僚作成の部分には誤りが少ない。誇張や誤りがあったのは、政治家が自らの言葉で語った部分だ。
■大臣指名、してた?
首相の〈我々野党の時はちゃんと大臣を指名してましたよ〉もそんな一つ。年金問題を取り上げた今月4日の衆院予算委員会で、所管大臣の厚生労働相を委員会に呼ばず、首相に質問を集中させた民進議員を批判した後の言葉だ。
実際には、自民も野党時代の2011年7月の参院予算委で原発問題を取り上げながら、原発担当相と経済産業相を呼ばず菅直人首相(当時)に質問を集中させた。このとき、菅氏は「当事者の大臣にお聞きになることが質疑をしっかりと進めるうえで重要だ」と語っていた。
■二重国籍、自民は?
民進の蓮舫代表の二重国籍問題に絡む今月3日の首相答弁〈基本的にわが党の議員は、二重国籍ではないという認識に立っている〉は、認識の誤りが翌4日に明るみに。参院選で初当選した自民の小野田紀美(きみ)氏が米国との二重国籍状態であることを産経新聞が報じ、小野田氏も認めた。
■強行採決、考えず?
国会は事実の説明にとどまらず、様々なレトリック(修辞技法)を用いて主張の正当性を戦わせ、世間に印象づける場でもある。
環太平洋経済連携協定(TPP)の承認案を審議する17日の衆院特別委員会。「強行採決という形で実現するよう頑張らせていただく」と述べて辞任した自民の特別委理事の発言に対する認識を民進議員に問われ、首相が答えた。
〈そもそもですね、我が党において、いままで結党以来ですね、強行採決をしようと考えたことはないわけであります〉
野党が採決を拒否しているにもかかわらず、与党が審議を打ち切って採決してしまう事例は、最近でも13年の特定秘密保護法や15年の安保関連法があり、結党までさかのぼると枚挙にいとまがない。ただ、首相が語ったのは「強行採決をしようと考えたことはない」という内心の話。とはいえ、首相が歴代の総裁と幹事長、国対委員長に当時の国会戦略の真意を確認したはずもなく、委員会室では「えー」という声が上がった。
■南スーダン、危険は?
〈南スーダンはですね、例えば、我々が今いるこの永田町と比べればですね、はるかに危険な場所〉。12日の衆院予算委員会では、自衛隊が国連平和維持活動(PKO)に従事する南スーダンの治安情勢についての認識を共産議員に問われ、こう答えた。
首都ジュバでは7月に大統領支持派と前副大統領支持派による戦闘が発生し、数百人が死亡。一方、警視庁麹町署の地区別犯罪発生状況などによると、14年に永田町・霞が関地区であった殺人は0件。強盗やひったくりといった指定重点犯罪の発生件数もゼロだ。
首相は「治安情勢は(日本と)比較にならないほど厳しいのは事実」と付け加えたが、日本の首都中枢と比べること自体が「内戦状態」と評される現地の厳しい状況を覆い隠しかねない。
(南彰、園田耕司)
■大統領選、米メディアは盛ん
ファクトチェックはメディアが政治家の発言を検証し、「正しい」「一部誤り」「誇張」などと判断するものだ。米国の政治ジャーナリズムでは主流の手法で、ファクトチェックを専門とする政治ニュースサイトもある。共和党候補のトランプ氏に虚実ない交ぜの発言が多く、特に今回の大統領選では各メディアが盛んに特集を組んでいる。
ただし、ときには専門的な分野に及ぶ発言内容の事実関係を判断するのは容易ではなく、米メディアは特別な取材態勢を組むこともある。たとえば、先月26日夜(日本時間27日午前)にあったクリントン、トランプ両氏による初の討論会で、ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙は外交・安保や経済、気候変動、調査報道に精通する、少なくとも18人のベテラン記者を動員したという。
記事(電子版)では22の発言を詳細に検証。トランプ氏の「自分はイラク戦争に反対していた」との発言について「戦争前は反対したが、戦争へと発展していくと賛成の意思を示した」と論評。クリントン氏の「トランプ氏は『気候変動問題は中国人によるでっち上げ』と語った」との発言について「トランプ氏は12年に(同趣旨を)ツイートしている」として、正しいとの判断を示した。
−−「首相の答弁、正確? 「ファクトチェック」してみました 臨時国会中盤」、『朝日新聞』2016年10月24日(月)付。
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http://www.asahi.com/articles/DA3S12623067.html