覚え書:「まず思いを手紙で伝えてみては 三浦しをんさん [文]三浦しをん」、『朝日新聞』2017年02月05日(日)付。

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悩んで読むか、読んで悩むか
まず思いを手紙で伝えてみては 三浦しをんさん
[文]三浦しをん  [掲載]2017年02月05日

76年生まれ。作家。『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞。


■相談 夫とすれ違い、支えあい感じられない

 結婚22年の夫婦です。共働きで夫の帰りが遅く、すれ違いの生活のうえ、子どもも大きくなってますます接点がなくなりました。もともと感情を表にださず、家庭にトラブルが起こらなければ良しという感じです。何事にも関心がないように見え、支えあって生活していると全く感じられません。気持ちのもちように迷っています。
 (大阪市、施設職員女性・51歳)

■今週は三浦しをんさんが回答します
 夫の心胆を寒からしめるため、思いきって家庭にトラブルを起こしてみてはどうでしょう。ダメですね。すみません。
 結婚したことがないので、渾身(こんしん)で想像してみたのですが、私ならば、熟年離婚に備えて仕事に精を出し、自分名義の口座に貯蓄しつつも、自身の思いを手紙で夫に伝えます。さびしく、むなしい気持ちでいること。もう少し会話したいし、パートナーとして認めていると態度で示してほしいこと。そして、この手紙を読んだうえでの、あなたの感想や考えを、口頭でも文章でもいいから知らせていただきたい、と。
 手紙を書く際には、梯久美子著『世紀のラブレター』(新潮新書)を参考にします。さまざまな立場、時代、世代の人々の、大切な相手への手紙が収録されています。いろんな夫婦の形があること、「手紙」という共通の体裁を取ったとしても、気持ちの表現のしかたは多様であることが、とてもよくわかります。
 その後、夫に交換日記を持ちかけます。数行でもいいので、互いの一日について報告しあう。あるいは、写真をシェアできるネットのアプリをがんばって駆使し、一日一枚、撮った写真を送りあいます。被写体は猫やご飯や枯れ枝などです。
 ここまでしても、コミュニケーションを取ろうという働きかけに夫が乗ってこない場合は、黙々と貯蓄をつづけます。同時に、地球を取り巻く大気と結婚したのだと割り切って、休日に友だちと遊びにでかけたり、趣味に打ちこんだりします。自分の人生を、楽しく生きることに専念するのです。
 そのうち、定年してさびしくなった夫が、ちょっと距離を縮めてくるかもしれません。どう対応するかはそのとき考えます。選択権は、信頼する友も趣味も貯蓄もある私の手のなか。ふふふ。夫よ、悔い改めよ。
 人間関係は時間とともに変化します。伝えるべきことを伝えたのち、ご自身の生を充実させることを第一としていれば、いい変化が自(おの)ずと訪れるのではないかと思います。
    ◇
 次回は歌人穂村弘さんが答えます。
    ◇
 ■悩み募集
 住所、氏名、年齢、職業、電話番号、希望の回答者を明記し、郵送は〒104・8011 朝日新聞読書面「悩んで読むか、読んで悩むか」係、Eメールはdokusho−soudan@asahi.comへ。採用者には図書カード2000円分を進呈します
    −−「まず思いを手紙で伝えてみては 三浦しをんさん [文]三浦しをん」、『朝日新聞』2017年02月05日(日)付。

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http://book.asahi.com/reviews/column/2017020500017.html


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