覚え書:「【東京エンタメ堂書店】フシギ 楽シキ「森見ワールド」」、『東京新聞』2017年02月20日(月)付。

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【東京エンタメ堂書店】

フシギ 楽シキ「森見ワールド」

2017年2月20日


 森見登美彦(もりみとみひこ)さんの代表作『夜は短し歩けよ乙女』が映画化され、4月から劇場公開されます。主人公の声を音楽家で俳優の星野源さんが務めることでも話題ですね。今、注目を集める森見さんのお薦めの3冊を用意しました。(運動部総括デスク・谷野哲郎)
◇お薦めの3冊

◆『夜は短し歩けよ乙女
 読むと不思議な感覚に陥る作家さんです。森見さんが書く小説は、ばかばかしさの中に温かさも清々(すがすが)しさもあり、訳の分からないうちにグイグイ引き込まれます。<1>『夜は短し歩けよ乙女』(角川文庫、605円)は第20回山本周五郎賞受賞作。累計120万部超という人気小説です。
 ジャンルは「爆笑恋愛ファンタジーもの」とでも言えばいいのでしょうか。京都の大学に通う「先輩」が後輩である「黒髪の乙女」に思いを寄せながら、さまざまな騒動に巻き込まれる物語。なるべく彼女の目に留まるナカメ作戦、7色の吹き流しが舞う火鍋勝負、学園祭のゲリラ演劇など。ニヤリ。フフッ。わっはっは。読むと多様な笑いを体験することでしょう。
 文中には、現実にはありえないようなものが出てきます。筆者が好きなのは、李白の3階建て電車。どこかジブリを連想させるところがあり、ぜひ乗ってみたい。また、多くの森見作品に登場する謎の名酒「偽デンキブラン」を一度飲んでみたいと思うのは、私だけではないはず。
 4月から東宝系で公開されるアニメ映画では「先輩」の声を星野源さんが演じます。ちなみに「黒髪の乙女」は花澤香菜さん、「学園祭事務局長」は神谷浩史さん、「パンツ総番長」はロバート秋山さんが担当。このラインアップで面白くないわけがない(笑)。映画も楽しみです。

◆『有頂天家族
 森見さんが書くのは、人間だけではありません。愛すべきタヌキの一家を書いたのが、<2>『有頂天家族』(幻冬舎文庫、741円)。京都に暮らすタヌキの名門・下鴨家の三男・矢三郎が兄弟たちや天狗(てんぐ)の赤玉先生、謎の美女の弁天らと事件を起こします。
 意地悪なライバルダヌキの夷川(えびすがわ)一家や、矢三郎たちを鍋にしようともくろむ人間たち「金曜倶楽部(クラブ)」との戦いは抱腹絶倒。この作品も4月からテレビアニメで第2期が放送予定。矢三郎の口癖は「面白きことは良きことなり」。悩み多き筆者は、この作品のラストを読んですっと救われた気持ちになりました。

◆『夜行』
 森見さんは1979年、奈良県生まれの38歳。主に京都を舞台とした想像小説を書いており、本紙でもたびたび紹介されてきました。最近では直木賞候補に<3>『夜行』(小学館、1512円)が選ばれ、話題になりました。
 怪談系のこの作品は、10年前に消えた長谷川さんと銅版画家・岸田道生が描いた「夜行」という絵を主題に話が進みます。明確な謎解きがなく、筆者には難解でしたが、とにかく第2章「奥飛騨」のミシマさんが怖かったです。
 このように独特の世界観を持つ森見作品は、多くの人に愛されています。例えば、文庫本「夜は短し−」の巻末には漫画「3月のライオン」で有名な羽海野(うみの)チカさんが「ページをめくりながら、私のまわりを、たくさんのイメージが転がり廻(まわ)り、駆け抜けていくのをずっとうっとり楽しんで読ませていただいておりました」との解説を寄せています。筆者も同感です。この機会に個性的な森見ワールドをぜひ、ご堪能ください。
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