日記:「おとなしくしていれば何とかしてもらえる」という考え方はよしましょう

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 参加者のみんなが生き生きとして、思わず参加したくなる「まつりごと」が、民主主義の原点です。自分たちが、自分個人を超えたものを「代表」していると思えるとき、それとつながっていると感じられるときは、人は生き生きとします。
 これはデモにかぎらず、何らかの活動をしている人や集団に、共通していえることです。行政主催の公聴会や審議会だって、ほんとうに地域や政策を作っていく議論が行われれば、活気が生まれ人は参加しますが、結論が決まっていて形だけなら、つまらないから参加しません。イラスト入りのわかりやすい説明をしても、それがただの広報なら、人はほんとうには楽しがらないものです。
 数よりも、そうしたことのほうが大切です。「数が集まらない」「なぜ来てくれないんだ」「来なかったお前は裏切り者だ」とかいう感情が生まれるときは、楽しくないときです。ほんとうに楽しければ、「来ない人は損したね」となるはずです。
 そんなのは自己満足さ、この世はすべて自己満足さ、という人もいます。本当に満足している人は、そういうことは言いません。イギリスの鉄道マニアの集会を見たことがありますが、みんなでミニ鉄道を走らせ、心底から楽しそうに盛りあがっていて、「こんなのは自己満足さ」といった卑下や照れ、「おまえより知識があるぞ」といった競争や批判が感じられませんでした。
 それじたいが楽しいとき、目的であるときは、人間は他人に自慢したいとか、他人を貶めたいといった「結果」を求めません。受験勉強が典型ですが、ほんとうは楽しくなくてむなしい行為、アレントの言い方を借りれば「労働」をしながら生きているときに、他者と比べて自分の位置を測るとか、他者を貶て優位に立つといった「結果」がほしくなるのです。
 その種の非難を受けたら、動揺しないようにしましょう。複雑化している現代では、絶対に安全ということがありえないのと動揺に、まったく批判がないこともありえません。学校や職場のいじめもそうですが、動揺したり、落ち込んだり泣いたり、むきになって反論すると、相手はおもしろがってよけいにいじめます。
 「おとなしくしていれば何とかしてもらえる」という考え方はよしましょう。政府も企業もマスコミも、声が大きいところをまず相手にします。声を出さないと、とりあげられません。黙っていても何とかしてもらえるのは、親子の関係か、親分子分の関係だけです。
    −−小熊英二『社会を変えるには』講談社現代新書、2012年、498−500頁。

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