覚え書:「憲法を考える 押しつけって何?:1 生い立ち様々、各国で知恵」、『朝日新聞』2016年11月04日(金)付。

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憲法を考える 押しつけって何?:1 生い立ち様々、各国で知恵
2016年11月4日

 地中海に浮かぶキプロス島で来年5月、国際憲法学会の部会が開かれる。テーマは「押しつけ憲法(imposed constitution)」だ。

 「日本の憲法の際だった特徴は(70年間一度も改正されなかった)長い耐用年数で、私たちに押しつけ憲法の概念の見直しを促している」。部会の責任者、ギリシャのパンテイオン大のクセノホン・コンティアード教授(憲法学)は「押しつけ憲法」をテーマに選んだ理由をこう説明する。

 「押しつけかそうでないかという二分論は、日本の憲法への理解を妨げてしまう。大切なのは、日本の例から憲法への信頼を醸成したのは何かを探ることだ」

 「押しつけ」という意味では、明治時代につくられた憲法もそうだったと長谷部恭男・早大教授は言う。「天皇主権を定めた大日本帝国憲法は、本来憲法をつくる権力を持つ、主権者たる国民に明治政府が押しつけたものだ」。長谷部氏は今春発表した論文で、大日本帝国憲法の核心である君主制原理が、19世紀のドイツ連邦の国々の憲法をまねたものだと明らかにした。

 天皇について定めた第4条はバイエルンとビュルテンベルク両憲法の規定を下書きにし、さらにこれらの憲法は、ナポレオン退位後にできた欽定(きんてい)憲法「フランス1814年シャルト」がモデルとなっている。

 「大日本帝国憲法は日本固有の価値観を表したものという見方があるが、要は、『コピー・アンド・ペースト』です」と長谷部氏。

 目を転じれば、米国では、奴隷制廃止を掲げた憲法修正13条を南北戦争で敗北した南部に押しつけ、国のかたちをつくった。冷戦終結後、次々と新憲法を制定した東欧諸国は、人権尊重や権力分立、法の支配という西欧立憲主義の伝統を進んでコピペし、西側諸国の仲間入りを果たした。

 憲法の「生い立ち」には各国とも様々な事情がある。だからこそ先人たちは、自分たちのものにするために、知恵を絞り、実践を重ねてきたのだ。

 (編集委員・豊秀一)

 (3面に続く)
    −−「憲法を考える 押しつけって何?:1 生い立ち様々、各国で知恵」、『朝日新聞』2016年11月04日(金)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12641670.html





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