覚え書:「政治断簡 「押しつけ論」封印続く? 編集委員・国分高史」、『朝日新聞』2016年12月04日(日)付。

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政治断簡 「押しつけ論」封印続く? 編集委員・国分高史
2016年12月4日

 1年5カ月ぶりに議論を再開した先の衆院憲法審査会で感じたのは、憲法改正に向けた自民党の「本気度」だ。

 「憲法制定経緯」について党を代表して発言した中谷元氏は、GHQ草案に多くの修正が加えられたことなどを挙げ、「GHQの関与ばかりを強調すべきではないとの意見を考慮に入れることも重要だ」と述べた。「押しつけ憲法論」の封印である。

 これまでこのテーマで議論すると、自民からは「内容さえよければ押しつけの憲法でも構わないという意見には賛成できない」といった声が噴出していた。「押しつけ論」は自主憲法制定という「党是」の根幹にかかわるだけに、注目すべき変化だ。

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 その背景を党幹部はこう明かす。「改憲実現のために何をすべきかを考えれば、障害を取り除くのは当然だ。押しつけ論を語ることで民進党が議論のテーブルに着かないなら、言うのはやめようということ」。事前の入念な打ち合わせの結果だった。

 与党はいまの国会で、環太平洋経済連携協定(TPP)承認案や年金制度改革法案などで採決強行を繰り返している。一方、憲法改正案でこれをやれば、国民投票で承認を得られないのは必至。改憲では野党第1党の民進を巻き込んでの円満な議論が必要だし、そのためには押しつけ論も封印する——。いまのところ、安倍晋三首相もこの姿勢を受け入れている。

 だが、押しつけ論の封印がいつまで続くかには疑問符がつく。二つの理由がある。

 ひとつは、押しつけ論が党内から消えたわけではなく、本音を抑え続けるのは難しいことだ。実際、参院憲法審査会で自民の中川雅治氏は「GHQの関与ばかりを強調すべきではないとの意見も多いが、現行憲法は主権が制限された中で制定され、国民の自由な意思が十分に反映されたとは言いがたいことは事実」と述べ、中谷発言とはニュアンスが違っていた。

 押しつけ論は、敗戦と連合国による占領をどう受け止めるかという歴史認識と深く結びついている。そこに強いこだわりをもつのが、ほかならぬ安倍首相だ。最近でこそ多くは語らないが、かつて国会で憲法改正が必要な三つの理由の第一に「進駐軍がつくったこと」を挙げていた。

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 もうひとつの理由は、野党との協調路線では、改憲派が望むようにとんとんとは議論が進みそうにないことだ。

 民進はすぐに改憲項目の絞り込みに応じる気配はないし、公明も慎重だ。憲法にまつわるそもそも論で討議を繰り返す審査会のあり方に、改憲を急ぐ勢力はいらだちを強める。改憲で首相と気脈を通じる日本維新の会足立康史氏は「『いつまで大放談会をやっているんだ』との声を色々なところから聞く」と議論をせかす。

 これではらちが明かないと見れば、政権中枢がどこかで協調路線をかなぐり捨てる可能性もある。そのときに押しつけ論が再び頭をもたげてくるのは、想像に難くない。
    −−「政治断簡 「押しつけ論」封印続く? 編集委員・国分高史」、『朝日新聞』2016年12月04日(日)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12690069.html





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