覚え書:「子どもたちの居場所:上 施設から里親へ、広がる試み 「問題行動」、研修で対処法」、『朝日新聞』2016年12月7日(水)付。


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子どもたちの居場所:上 施設から里親へ、広がる試み 「問題行動」、研修で対処法
2016年12月7日


男児の漢字の宿題につきあう女性=福岡市
 
 貧困や虐待などで実親と暮らせない子どもの9割は施設で暮らし、里親などの家庭的な環境で暮らす子は1割です。国は今年、家庭的な環境を積極的に増やしていく方向を示しました。子どもにとって最善の育ちの場を、どう整えていくのか。先進の英国やチェコの取り組みとともに3回にわたり報告します。

 3Dゲームの時間をまったく守れない。反省を促すとすぐすねてしまう。イライラすると傘や贈り物のグラブも大切に扱えない……。

 福岡市の元会社員の女性(58)は昨年3月から、育児放棄(ネグレクト)で保護された小5男児(11)の里親になった。長男(24)と同じように愛情を注いでいるが、「どうしてこんな行動を?」と悩み、つい叱る日が増えた。

 この夏、地元のNPOが主催する里親研修を受けた。医師や心理学者らが治験に基づいて作った英国のプログラムだ。里親6人が参加し、計36時間、傷ついた子どもが示すことがある「問題行動」の原因と対処法を話し合っていく。子どもの行動を記録し冷静に観察する目を養ったり、「なぜ」と問い詰めずに、複数の答えから近いものを選んでもらったりする。

 日本での里親研修の多くは、自治体への登録前後に基本1回ずつ。その後は更新(2年か5年)時のみ。短期間の研修はあるが座学が中心だ。「生活の困り事は24時間起こる。迷うたびに児童相談所に電話をするのは気がひけて孤立しそうだった。研修で、あの子の行動の理由が分かり、叱る回数も減りました」と女性は話す。

 国は2011年、保護が必要な子の3割が家庭的な環境で暮らす目標を掲げた。民間の里親支援団体への助成予算を増やし、児童相談所に里親専門職員を配置。今年5月にはさらに踏み込み、できる限り家庭的な選択肢を検討していく方針を児童福祉法に明記したが、本格的な取り組みはこれからだ。

 福岡市は里親委託を積極的に進め、家庭的な環境で育つ子の割合は32%。ただ、児相に6人の専門職員を置いても、里親の日々の悩みを救いきれないという。全国児童相談所長会の調査(11年)でも、里親の委託が解除されたケースのうち約24%が里子との関係が難しくなったことが原因だった。専門職員の瀬里徳子(せりのりこ)さんは「深刻な不調を予防し、子どもも里親も安定した関係を築ける制度にするには、効果的な実地研修と親身に伴走できる支援体制をつくる必要がある」と話す。

 ■イギリスでは 民間で24時間悩み相談

 英国中部のバーミンガム近郊。スーパーで働くキム・ローリーさん(55)は昨年、深刻なネグレクトを受けた1歳8カ月の男児を里子で迎えた。抱きしめると身を硬くし、パンやおやつを与えると枕の下に隠し、むさぼるように食べた。

 キムさんはすぐ、民間事業者の相談電話に連絡する。対応は24時間。担当の社会福祉士とも月に一度はお茶を飲み、悩みや喜びを語り合う。「トラブルもあるけれど、信頼できる担当者と一緒に、対応できることを増やしていける」とキムさんは話す。

 英国では、保護が必要な子の約7割にあたる約6万4千人が里親のもとで暮らす。約200自治体と約300の民間事業者が仲介し、委託後も見守る。民間事業者は、契約数を増やすためにも、より困難な子どもをケアできる技術と質を競う。

 自治体と事業者を監査するのは、政府機関「Ofsted(オフステッド)」。自治体などに20年以上の勤務経験がある約200人の監査官が、1〜3年おきに確認する。里親なら、30人の子の報告書に目を通し、子どもや家族、支援者、学校などに聞き取りする。4段階の監査結果は毎年公開。改善指導し、最低評価が改善されない場合は事業を停止させることもできる。監査のコストは保護予算の1%。

 調査責任者のリチャード・バッチェラーさん(28)は「聞き取りとデータで子どもの実体験を浮かび上がらせる監査をしている。全国共通の厳しい監査を導入したからこそ、質のよいケアが可能になる」と話す。

 課題もある。十分な支援が受けられずに里親が不調になり、移動を余儀なくされる子がおり、平均4、5回にのぼる。利益追求に走りすぎる民間事業者への批判もある。(山内深紗子)

 ■親と暮らせない子、4.6万人

 厚生労働省によると、実親と暮らせないと判断された子どもは約4万6千人(15年)。児童相談所が保護を判断し、養育の場を決める。施設には、乳幼児をケアする乳児院や原則18歳までの子が入所する児童養護施設などがある。家庭的な養育環境として、一定期間育てる里親、5、6人を育てるファミリーホームが挙げられる。里親の元で暮らす子は4731人。

 ◆明日は、日本と同じように施設での養育が当たり前だったチェコ共和国が、家庭的な環境を増やして逆転させた取り組みなどを報告します。
    −−「子どもたちの居場所:上 施設から里親へ、広がる試み 「問題行動」、研修で対処法」、『朝日新聞』2016年12月7日(水)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12694109.html


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