覚え書:「子どもたちの居場所:中 家庭的な環境、まず検討 短期の里親・施設も小規模化」、『朝日新聞』2016年12月08日(木)付。

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子どもたちの居場所:中 家庭的な環境、まず検討 短期の里親・施設も小規模化
2016年12月8日

夫婦と里子のマチェイ君(左から2人目)、マティアーシュ君=チェコ・フルジム

 ■チェコでは

 実親のもとで暮らせず、保護が必要な子のうち、日本では約9割が施設で暮らす。だが欧米諸国では、里親などの家庭的な環境で暮らす子が約5〜9割を占める。

 その一つ、チェコ共和国では6割が家庭的な環境で暮らす。2013年に施設との比率を逆転させた。

 原動力の一つが、最長1年の短期里親制ログイン前の続き度の創設(11年)だ。緊急保護された子をいつでも引き受ける。手当は通常の里親の3倍の月約9万6千円。登録は5年間で3世帯から543世帯に増えた。

 三つに分かれていた施設の管轄を一元化し、施設の小規模化も進めた。13年には、子どもの居場所を決める権限を、自治体から裁判所に移す法案が成立した。

 施設から家庭的な環境への移行も進めた。

 首都プラハから125キロのフルジム。育児放棄を受けたマチェイ君(12)は、里子のマティアーシュ君(6)と一緒に3年前から40代夫婦の家で暮らしている。6歳から9歳まで、20人の子どもと施設で過ごした。「最初は言葉も動作もぎこちなくて驚きました」と夫婦は振り返る。今では、サッカー部で活躍し、成績も優秀だ。定期的に実の母(48)にも会っている。「おばさんのご飯はおいしいし、弟ができてとってもうれしいよ」と笑顔で話す。

 チェコ政府にこうした施策を助言したのは、国際NGO団体「LUMOS(ルーモス)」だ。

 LUMOSは「ハリー・ポッター」の呪文。シリーズの著者J・K・ローリングさんが05年に設立した。施設で暮らす世界の子どもたちが家庭的な環境で暮らせるようにする「脱施設化」を掲げる。

 09年に採択された国連の「児童の代替的養護に関する指針」では、永続的な愛着を結べる環境を重要な目標にしている。乳幼児期に特定の大人と安定した愛着関係を結べるかどうかが、子の発達に大きく影響することが明らかにされてきているからだ。このため欧米では、保護を必要とする子の行き先を、(1)実親(2)親類(3)養子縁組(4)里親(5)施設の順番で検討する国が多い。

 「『まず施設へ』という固定化した考えから脱却し、家庭的な環境で様子を見極め、その後に暮らす場所を決めていくという意識変化が迅速に進んだ」と、LUMOSのチェコ事務所の代表者は話す。

 18歳まで施設で育ち、当事者団体の代表を務めるミハイル・ジョルジュさん(28)は、政府の審議会で経験を話し、政策提言をしている。

 「施設は、衣食住は満たされたけど、ここが僕の家だとは思えなかった。やはり家庭にはかなわない。だからこれからの子どもたちには同じ経験はさせたくない」

 ■乳児院子育て支援

 約40人の乳幼児を保護する和歌山県岩出市の和歌山乳児院は、11年から里親支援事業に取り組む。地域の里親家庭を訪問し、365日の電話相談も行う。

 きっかけは8年前、院長の森下宣明さん(61)が妻の芳子さん(53)の希望で小3女児(9)の里親になったことだ。1対1で育まれる信頼関係の大切さを実感した。「可能ならば家庭で育つことが優先されるべきだと再認識しました」。ならば、「施設が里親支援の拠点に」と考えた。

 全国の乳児院児童養護施設の組織も、困難な子と親の支援を続けてきた経験の蓄積を、育児に悩む家族や里親の支援に生かす方向を掲げ始めている。

 136カ所の乳児院でつくる全国乳児福祉協議会は昨年、「よりよい家庭養護の実現をめざして」と題するビジョンを公表。乳児院は保護された乳幼児の半数を親元に帰し、緊急保護先として地域の親子とも関わっている。こうした親子支援の経験を生かし、職員が自ら里親を探してつなげていくことが今後求められるとした。

 会長の平田ルリ子さん(57)は「子どもと実親、里親、施設がつながる日本型の仕組みを着実に整えていくことが大切だ」と話す。

 欧米では施設の小規模化も進む。主に6人以下で、治療や24時間の見守りが必要な10代の利用が多い。日本は20人以上が5割。小規模といっても、12人以下が多い。国は昨年、児童養護施設について、小学生以上の子ども5・5人に1人だった職員配置を、4人に1人に見直した。

 全国児童養護施設協議会の会長、藤野興一さん(75)は「これまでは予算も限られ、大規模では管理にならざるを得なかった。だが今後は数を増やしつつ、欧米並みに小規模化し、預かるだけでなく地域の子どもの支援に貢献していく」と話す。

 (山内深紗子)

 ◆明日は、国際NGO「LUMOS」の代表に、世界23カ国での「脱施設化」の経験について聞きます。
    −−「子どもたちの居場所:中 家庭的な環境、まず検討 短期の里親・施設も小規模化」、『朝日新聞』2016年12月08日(木)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12695916.html





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