覚え書:「売れてる本 タテ社会の人間関係 [著]中根千枝」、『朝日新聞』2017年03月26日(日)付。

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売れてる本 タテ社会の人間関係 [著]中根千枝

タテ社会の人間関係 [著]中根千枝
2017年03月26日
■アイデアが明快、応用もきく

 半世紀にわたり本書が読まれ続けている理由はなにか。
 第一に、学問の裏付けがしっかりしていること。著者はイギリスに留学して社会人類学を学び、それを踏まえて日本社会を考察した。カギは社会構造。狭くは親族構造(血縁集団のつくり方)を指すが、それを企業組織の解明に応用している。
 第二に、比較方法論を用いていること。社会構造は変化しにくい。西欧やインド、中国と比べて、日本社会の特徴を取り出す。その分析は刊行から五〇年後も少しも古びていない。
 第三に、体系的であること。シンプルな前提(「場」を共有する)から始め、企業組織のリーダー像やマネジメントのあり方まで、首尾一貫した議論を演繹(えんえき)する。モデルにもとづいて現象を説明する、科学的分析のお手本のようなやり方だ。
 第四に、イデオロギーと無縁なこと。戦後の社会科学は、マルクス主義の影響が強かった。本書は逆に、左翼や労働運動にもタテ社会の法則があてはまりますよ、とやりこめている。
 第五に、高度成長の時代にぴったりだったこと。企業は拡大し続け、マネジメントが大事になった。欧米の輸入でなしに日本で生まれた分析ツールなのがよい、とみんな思った。
 本書は英訳されてペンギンブックスに入り、日本理解の定番となった。村上泰亮他『文明としてのイエ社会』や山本七平小室直樹日本教社会学』も続いたが、本書をしのぐベストセラーはまだ現れていない。
 だが、本書には限界もある。まず、社会構造を永遠不変と考えている点。社会人類学の定石だが、戦後にようやく一般化した終身雇用を、大昔からとみなすのは困る。議論の運びに印象論が多く裏付けに乏しい。タテ社会の概念があいまいで、カースト制の逆なのか西欧のルール社会の逆なのかも不明だ。
 とは言え本書の魅力は、アイデアが明快で、切れ味が鋭く、応用がきくこと。刺激に満ち、愛され続けるのも当然だ。
    ◇
 講談社現代新書・756円=128刷117万部
67年2月刊行。今も毎年着実に売れるロングセラー本。「中央公論」64年5月号の論文「日本的社会構造の発見」がもとになっている。
    −−「売れてる本 タテ社会の人間関係 [著]中根千枝」、『朝日新聞』2017年03月26日(日)付。

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http://book.asahi.com/reviews/column/2017032900002.html


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タテ社会の人間関係 (講談社現代新書)
中根 千枝
講談社
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