覚え書:「難民と交わらぬ日常、問う 映画「海は燃えている」のロージ監督に聞く」、『朝日新聞』2017年02月09日(木)付。

Resize5958

        • -

難民と交わらぬ日常、問う 映画「海は燃えている」のロージ監督に聞く
2017年2月9日

ロージ監督=鬼室黎撮影
 
 命懸けで地中海を渡る難民と小さな島の住民という二つの日常を対比させたドキュメンタリー。昨年のベルリン国際映画祭で最高賞に輝き、米アカデミー賞にもノミネートされた「海は燃えている〜イタリア最南端の小さな島〜」が11日から公開される。来日したジャンフランコ・ロージ監督は「近くにいるがコミュニケーションがとれていない。これは今の世界のメタファーなんだ」と語る。

 イタリア最南端のランペドゥーサ島。アフリカや中東からヨーロッパをめざす難民・移民の玄関口として知られ、5500人ほどが暮らす小さな島に、年5万人もの人が押し寄せている。「報道では死や悲劇と絡めて一面的にしか取り上げられないが、その現実はもっと複雑だった」

 島に1年半住み込み、3カ月はカメラを回さず、島の人たちを知ることから始めた。映画では少年ら島民と難民の日常が同時並行で描かれ、交わることはない。「物理的に触れ合う機会がない。すぐそばにいる島の人でさえラジオや報道を通じて現状を知る形になっている」

 イタリア海軍船に40日間乗り込み、海上で救助される難民を追った。壮絶な生い立ちを祈るように歌ったり、出身国に分かれてサッカーをしたりする姿まで、カメラは彼らの多様な横顔を映し出す。最前線では「死」にも直面した。30、40人ほどの遺体が重なり、ナチスガス室のような光景が広がっていた船底。撮影すべきかどうか迷っていると、船長から「君には世界に知らせる義務がある」と告げられたという。

 監督もこうした境遇と無縁ではない。北東アフリカのエリトリアから紛争のため13歳で両親の故郷であるイタリアへ移住した。「難民が乗っていた舟からエリトリアの言葉が聞こえてきたとき、自分には伝える義務があると感じた」

 「政治的な作品ではない」と監督は強調するが、難民支援を打ち出したベルリン国際映画祭金熊賞に選ばれ、移民政策が議題となったEU首脳会談でイタリアの首相が「人を数ではなく、ひとりひとりの人間として描いている」として27人の全首脳にDVDを手渡すなど、映画は現実世界とも響き合っている。「この映画が歴史の方向性を変えられるとは思っていないけれど、知るきっかけをつくることはできる。答えよりもたくさんの問いを生むから」

 すでに64カ国で配給が決まり、監督も公開に合わせて各国を訪れている。ランペドゥーサと同じような島があるギリシャでは危機感が高まり、EU離脱の国民投票を控えていた英国では移民への恐怖心と絡めて議論され、トランプ氏就任前で「国境に壁」発言が話題になっていた米国とメキシコでは、地中海を砂漠になぞらえて受け止められた。

 では日本は。2015年の難民認定申請者7586人に対し、認定されたのは27人。「豊かな日本がこれほど難民を受け入れていないと知ってショックだった。日本で上映する意義は大きい。各国が責任を持って、解決していかなければいけない問題だから」

 映画の冒頭、難民の救助要請に警備隊が無線で「あなたの位置は?」と問いかける。「これは観客に対する問いかけでもある。ランペドゥーサは漁師の島。海から来るものはすべて受け入れる。今、未知なるものへの恐怖心が高まっているが、私たちはこの精神、魂から学ぶべきなのかもしれません」

 (佐藤美鈴)
    −−「難民と交わらぬ日常、問う 映画「海は燃えている」のロージ監督に聞く」、『朝日新聞』2017年02月09日(木)付。

        • -


http://www.asahi.com/articles/DA3S12788108.html





Resize5918

Resize5165