覚え書:「書評:ゴジラ幻論 倉谷滋 著」、『東京新聞』2017年04月30日(日)付。

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ゴジラ幻論 倉谷滋 著

2017年4月30日

◆人類の知を揺るがす
[評者]切通理作=批評家
 本職の学者である倉谷滋が、怪獣映画に登場する博士役に成り変わって、怪獣がもし現実の生き物だったら、進化形態学、比較発生学的にどう説明がつくのかを主に述べている。
 昨年大ヒットした「シン・ゴジラ」に登場したゴジラの遺伝学的操作はいかになされたか、モスラの前翅(ぜんし)と後翅(こうし)の「目玉模様」の違い、昭和のゴジラと戦ったアンギラスが身体の各所に脳を持つというのはあり得るか…。
 従来、洋の東西を問わず、博物学では実在が確かめられた生き物と、ユニコーンやドラゴンや鳳凰(ほうおう)といった伝説上の幻獣についての記述が混在していた。
 「怪獣は未(いま)だ完成を見ない人間による『世界観・自然観』の可能性と、あきらかな虚構としての『物語』の狭間(はざま)に位置している」と、本書は科学的な知の決めつけを排して、怪獣の<境界性>を定義する。我々人類が「知っていること」と「知らないこと」の自明性を揺るがすのが<怪獣>の存在意義だというのだ。
 ところどころに挟(はさ)まれる、著者の幼い頃からの怪獣映画体験をつづったエッセイも楽しめるが、これは単なる箸(はし)休め記事ではない。いくら科学が発達しても、個々の人間は、生まれてから徐々に自分をとりまく世界の仕組みを把握していくものであるとするなら、<怪獣>の存在は成長の友ともいえるからだ。
工作舎・2160円)
<くらたに・しげる> 1958年生まれ。理化学研究所研究員。著書『形態学』など。
◆もう1冊
 柿谷哲也ほか編著『シン・ゴジラ機密研究読本』(KADOKAWA)。ゴジラの生態や対応する兵器などを検証。
    −−「書評:ゴジラ幻論 倉谷滋 著」、『東京新聞』2017年04月30日(日)付。

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