覚え書:「「戦争防ぐため、科学者は団結を」 予算急増の軍民両用研究に懸念も 学術会議シンポ」、『朝日新聞』2017年02月16日(木)付。

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「戦争防ぐため、科学者は団結を」 予算急増の軍民両用研究に懸念も 学術会議シンポ
2017年2月16日

シンポジウム会場では、検討委委員への質問や意見が相次いだ=4日、東京都港区
 日本の学術界は軍事研究とどう向き合うべきか。今月4日、科学者の代表機関である日本学術会議が都内で公開シンポジウムを開いた。参加者からは、軍事と民生が接近しやすい時代だからこそ、学問の自由を守り、軍事研究に慎重であるべきだとの声が多く出された。当日の講演や参加者とのやりとりを紹介する。

 シンポジウムではまず、安全保障と学術に関して審議を続けてきた同会議検討委員会が1月に出した中間とりまとめが報告された。科学者コミュニティーの独立性や研究の公開性など様々な側面から検討され、「学術研究にとって重要なのは、民生的分野自体における基礎研究の充実である」などと、軍事研究への慎重姿勢を求める内容だ。

 シンポでは事前に、学術会議の会員らに意見表明する人を募集。応募してきた5人全員が中間とりまとめを支持しており、そのうち4人が講演した。

 立命館大学経営学部の兵藤友博教授は、科学史上、為政者と科学者の態度は違っていたことを説明。「科学者は、研究が軍事利用される危険を察知して、それを回避する態度を取ったことは重要な論点だ」と指摘した。東京電力福島第一原発の事故の後、日本学術会議が「科学者の行動規範」に特定の権威や組織の利害から独立するように記した経緯に触れ、「同じような反省を行うことになってもいいのか」と問いかけた。

 「『日本の安全保障のために』ではなく、『学術研究のために』という視点を優先して行動しなければならない」と訴えたのは、東京大学大学院理学系研究科の須藤靖教授。防衛装備庁による、軍事と民生の両方に使える「デュアルユース」の基礎分野での委託研究(安全保障技術研究推進制度)の予算が2016年度の6億円から17年度予算案で110億円に急増したことを踏まえ「今こそ引き返すべきだ」と訴えた。

 明治大学経営学部の佐野正博教授は、デュアルユースについて、「成果の利用という視点だけでなく、研究の意図も含んで検討しなければならない」と指摘。「研究自体が安全保障のためになっていく」と懸念を表した。

 先端医療振興財団臨床研究情報センターの福島雅典センター長は、世界科学者連盟が科学者の役割を定めた憲章にも「戦争を防ぎ、平和の礎を築くため」と明記されていることを紹介し、科学者の責任は時代の要請に応えることではないと主張。「我々は今、思想の大転換点に立っている。科学者はいまこそ団結しなければならない」と訴えた。

 このほか、産業界とメディアから1人ずつが学術会議からの要請で登壇した。

 未来工学研究所の西山淳一研究参与は、メーカーで40年以上ミサイル開発に関わった経験から発言した。GPSやインターネットは元々、米国で軍事目的に開発された技術であること、ロケットと弾道ミサイルには共通の技術が使われていることなどを紹介。「軍事研究イコール兵器研究ではない。戦闘行為だけでなく通信、輸送、医療などに幅広く活用される。(軍事、民生の)境界がない中で技術が日常に利用される時代に入っている」と述べた。

 朝日新聞の根本清樹論説主幹は憲法23条に規定された学問の自由について触れ、「ときの政府に学問を規定させまいというのが23条とされている。学術会議が中間とりまとめで学問の自由をかかげたのは大事」などと述べた。

 ■科学者の責任、問う声も

 参加者と検討委委員との公開討論でも、学術会議が過去に出した声明について堅持を支持する声が相次いだ。中でも目立ったのは科学者の責任を重視する声だ。国際政治学者は「科学者こそが戦争を残虐化してきたと感じる」として、科学者も人道的観点から声をあげるべきだと訴えた。小学校教員は「被害者の側を考えるべきだ。『研究成果は何に使われるかわからない』というのは無責任」と批判した。

 学問の自由と大学の責任をめぐる議論もあった。

 検討委委員で九州大の小松利光名誉教授が「企業や防衛省の研究所だけがやればいいのか」と学術界が防衛研究に慎重であることに疑問を呈した。

 検討委委員長でもある法政大の杉田敦教授は「大学と企業では研究者の置かれた立場は異なる」と反論。「企業研究は業務命令で拒否はしづらい。だが、大学ではテーマを自由に選べる」として、検討委での議論を踏まえ、軍事につながる防衛研究と一線を画し、学問の自由を守ることが大学の大切な役割だと語った。

 また、検討委委員を兼務する学術会議の大西隆会長が防衛装備庁の委託研究への応募を肯定していることから、私見とは相反する内容でも検討委見解を尊重するよう求める意見も出た。(竹石涼子、杉原里美、嘉幡久敬)

 ■中間とりまとめの骨子

 ・学問の自由は政府によって制約されたり政府に動員されたりしがちであるという歴史的経験をふまえ、学術研究の自主性・自律性を担保する必要がある

 ・安全保障と学術との関係を検討する際の焦点は、軍事研究の拡大・浸透が、学術の健全な発展に及ぼす影響である

 ・安全保障技術研究推進制度は、将来の装備開発につなげる明確な目的があり、防衛装備庁の職員が研究の進捗(しんちょく)管理を行うなど、政府による研究への介入の度合いが大きい

 ・自衛権についてどう考えるかの問題と、大学等における軍事研究についてどう考えるかの問題とは直結するものではない

 ・大学等の各研究機関は、軍事研究と見なされる可能性のある研究は、その適切性を技術的・倫理的に審査する制度を設けることが望まれる
    −−「「戦争防ぐため、科学者は団結を」 予算急増の軍民両用研究に懸念も 学術会議シンポ」、『朝日新聞』2017年02月16日(木)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12798065.html


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