覚え書:「文庫この新刊! 池上冬樹が薦める文庫この新刊!」、『朝日新聞』2017年05月07日(日)付。

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文庫この新刊! 池上冬樹が薦める文庫この新刊!

池上冬樹が薦める文庫この新刊!
2017年05月07日
 (1)『アーサー・ミラー4 転落の後に/ヴィシーでの出来事』 アーサー・ミラー著 倉橋健訳 ハヤカワ演劇文庫 1620円
 (2)『宝を探す女』 逢坂剛著 角川文庫 734円
 (3)『ナオミとカナコ』 奥田英朗著 幻冬舎文庫 832円
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 『存在感のある人 アーサー・ミラー短篇小説集』(早川書房)でミラーの小説家としての才能に驚き、改めて戯曲集を読んでいるのだが、(1)の「転落の後に」の味わいは小説に近い。一人の男の告白劇は、自由自在に過去の記憶を出入りさせて、人間と運命の関係、愛の名のもとになされる行為の残酷さをあらわにする。いつものように象徴的で、力強く、格調高く、とくに今回は詩的な響きをもつ。
 (2)は、最後の最後まで油断できないプロットが光る短編集。とくに失踪した男との類似を語る冒頭の「カプグラの悪夢」はツイストの連続だし、埋蔵金を探す表題作はとぼけた語り口とユーモラスな肖像もまた楽しく、女優の嫉妬の意外な顛末(てんまつ)「過ぎし日の恋」は余韻があっていい。
 (3)は、殺人を犯す二人の女性に(驚くべきことに)ひたすら感情移入してしまう緊密な犯罪劇。仕掛けと起伏に富む実にスリリングな逃亡と追跡の物語であり、不思議なことにある種の爽快感すらある。希代の語り部奥田英朗の代表作の一冊。
    −−「文庫この新刊! 池上冬樹が薦める文庫この新刊!」、『朝日新聞』2017年05月07日(日)付。

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