覚え書:「ニッポンの宿題 たまるプルトニウム ジア・ミアンさん、勝田忠広さん」、『朝日新聞』2017年02月18日(土)付。

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ニッポンの宿題 たまるプルトニウム ジア・ミアンさん、勝田忠広さん
2017年2月18日

ジア・ミアンさん
写真・図版
 核兵器の原料となるプルトニウムを、日本は大量に持ち続けています。かつては「夢のエネルギー源」といわれましたが、利用計画は進んでいません。日本の核物質の扱いを定めた日米原子力協定が来年満期を迎えます。「お荷物」をどうするか、考えませんか。

 ■《なぜ》被爆国に48トン、世界が注視 ジア・ミアンさん(米プリンストン大学 物理学者)

 核兵器保有せず、核兵器廃絶に熱心なはずの被爆国がなぜ、核兵器の材料になるプルトニウムをこんなにも大量に持ってしまったのでしょう。日本が所有するプルトニウムは48トン。軍事用も含めて、地球上にあるプルトニウムの約1割にあたり、核兵器を持たない国としては圧倒的な量です。

 日本人がどう考えているかは別にして、世界の人びとはこの事実を見つめています。危険な物質を大量に保有し、ミサイルなどを開発する高度な技術をすでに持っている日本は、その気になれば、すぐにでも核兵器を持てる国だととらえられています。テロリストに奪われる恐れも懸念されます。

 日本は、米国から日本への核燃料供給などで結んだ日米原子力協定で、核兵器を製造しないことを条件に、プルトニウムを取り出せる核燃料サイクルが認められています。この二国間協定は、国際原子力機関IAEA)が平和利用されているか確認する保障措置と並んで、核不拡散の重要な仕組みです。現在、核兵器を持たない国で国内再処理が認められているのは日本だけですが、協定は2018年7月に満期を迎えます。増え続ける日本のプルトニウムをどうするのかが問われることになるでしょう。日本が自ら考え、決めなければなりません。

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 私が共同議長を務める国際NGO「核分裂性物質に関する国際パネル」(IPFM)は、世界の高速増殖炉計画、つまりプルトニウムを使って発電する計画の始まりから詳細に分析しています。起源は、原爆を生み出したマンハッタン計画にまでさかのぼれます。

 米国は第2次大戦中から、原子力を原爆だけでなく、発電への活用を考えていました。当時は、ウラン資源の調査が世界規模で行われておらず、希少だと思われていました。ウランを使い果たさないよう、再処理で取り出したプルトニウムを使って発電し、使った以上のプルトニウムを生み出す高速増殖炉計画が、夢のエネルギーになるとされ、世界各国で研究されていました。

 しかし、状況は変わりました。すでに全世界の原子力発電で必要な500〜1千年分のウランが発見されています。経済的な前提条件が根本的に違っているのです。

 経済的な側面に加えて、安全面でも問題が山積しています。高速増殖炉では、ナトリウムを冷却材に使う必要がありますが、ナトリウムは水と爆発的に反応してしまいます。日本の「もんじゅ」だけではなく、世界中で技術的な問題が解決されていません。

 そのため、英米を含め、多くの国が高速増殖炉計画から撤退しています。第2次大戦の敗戦国で、核兵器保有せず、エネルギー資源が乏しいといった日本との共通点を持つドイツも、議論の末、国内再処理と合わせて断念しました。日本以外に高速増殖炉計画があるのは、フランス、ロシア、中国、インドという核兵器を持つ国だけ。いずれも民間企業ではなく、国家が深く関与し、経済性を度外視して計画を進めています。

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 日本でも、経済産業省の主導ではなく、民間のプロジェクトであれば、撤退しているでしょう。核燃料サイクルの夢は、高速増殖炉と再処理工場の両方があってこそです。高速増殖炉計画が実現しなければ、青森県六ケ所村の再処理工場が「夢のエネルギー」の工場でなくなることも明らかです。稼働させる必要などないでしょう。

 プルトニウム利用に経済合理性がないことも、核テロの観点から危険なことも明白なのに問題解決が先送りされています。勇気を持った出口戦略が必要ですが、官僚制の特徴で、だれも方針転換の責任を取りたくないのでしょう。

 (聞き手・池田伸壹)

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 Zia Mian パキスタン出身。1997年に米プリンストン大学の科学と地球安全保障プログラムに参加し、現在共同ディレクター。

 

 ■《解く》処分の研究こそ平和貢献に 勝田忠広さん(明治大学准教授)

 プルトニウムを48トンもため込んでいるのは、核燃料サイクルの当初の計画からすれば、全く想定外です。高速増殖原型炉「もんじゅ」は、ほとんど稼働しないまま廃炉になる。プルトニウムとウランを混ぜた核燃料で発電するプルサーマル計画も、東京電力福島第一原発の事故の前から計画通りには進んでいなかった。青森県六ケ所村の再処理工場がまだ動いていないのに、海外で再処理させることで、使い道もないプルトニウムが増えていったわけです。

 計画が始まった1950年代から60年代には、額面通り、エネルギー資源の乏しい日本に必要だということだったのでしょう。70年代後半、カーター米大統領が世界的な核燃料サイクルの見直しを提案したあたりから「プルトニウムを持つ権利を失うべきではない」という主張が強くなっていった。

 しかし、国際的に見て、プルトニウムの経済的価値はゼロかマイナスです。有効活用はできず、核テロのリスクを考えると、むしろないほうがいい。不良資産だというのが常識になりつつある。

 もう核燃料サイクルは放棄し、プルトニウムは処分する方向に転換すべきです。遅すぎるくらいです。

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 使用済み核燃料に含まれる、分離していないプルトニウムは、そのまま直接処分するべきでしょう。処理すると扱いが難しくなる。ようやく最終処分に進もうとしている北欧を始め、世界的にも直接処分が主流です。

 問題は、すでに分離してしまったプルトニウムです。核テロに使われるリスクも高い。米国や英国は、解体した核兵器から出た余剰プルトニウムの扱いに苦慮しています。高レベル廃棄物と混ぜて、人が近づけないようにして、地下深くに処分するといった研究が行われていますが、まだ途上です。

 日本は率先して、この国々のプルトニウム処分の研究に加わるべきです。単なる「ごみ問題」としてではなく、平和貢献としてやっていく。核兵器保有する米国や英国がプルトニウム処分に取り組むといっても、他の国から信用されない。核兵器を持たない日本だからこそ先導できるはずです。

 半減期が2万4千年と長いプルトニウムを長期的に安全に処分できるのかという懸念もいわれます。一例として、いま原子力規制委員会で行われている、原発廃炉にしたときに出る炉内廃棄物についての議論が参考になります。ここでは、処分施設をつくるとき、少なくとも10万年は管理できるようにすることが想定されています。

 プルトニウムにも似た考え方ができるはずです。数万年後には、事業者も国もなくなっている可能性が高いですが、掘り返せないところに埋めるなど、技術的な部分と自然に任せる部分を合わせて、人間が長期間近づけない方法を考えていくのです。「何万年も管理するのは無理」と思考停止してしまうと、「だから核燃料サイクルで利用するしかない」に戻ってしまいます。

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 日本は、科学技術政策全体に、エビデンス(科学的根拠)に基づいた議論が欠けていました。いろいろな選択肢を検討すべきなのに、「これに決まっています、それ以外は考えないでください」といってきた。その典型が核燃料サイクルプルトニウムなのです。

 このままでは破局的な事故が起こるまで止まらない。その前に、国全体で民主的に議論して、進む方向を決めるべきです。ドイツは再処理工場まで造ったのに、安全評価をして、核燃料サイクルは止めました。プルトニウムという宿題を解決することは、日本の将来のあり方を考えることでもあるのです。

 (聞き手・尾沢智史)

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 かつたただひろ 1968年生まれ。専門は原子力工学原子力政策。原子力規制委員会の核燃料安全専門審査会審査委員も務める。
    −−「ニッポンの宿題 たまるプルトニウム ジア・ミアンさん、勝田忠広さん」、『朝日新聞』2017年02月18日(土)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12801794.html





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