覚え書:「書評:グローバル資本主義と<放逐>の論理 サスキア・サッセン 著」、『東京新聞』2017年05月21日(日)付。

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グローバル資本主義と<放逐>の論理 サスキア・サッセン 著

2017年5月21日


◆略奪される人間、自然環境
[評者]服部茂幸=同志社大教授
 米国のトランプ大統領誕生の背後には、格差の拡大と中間階級の没落があった。格差の拡大と中間階級の没落は今の日本の抱える問題でもある。「共産主義」の中国にも同じことが生じているのだろうか。本書はこの問いに「その通り」と答える。
 現在のグローバルな資本主義では、国の違いにもかかわらず、「できるだけ少ないグローバルな制約と、できるだけ少ないローカルな責任の下で、企業の経済成長を確保」しようとする力が働いているのである。
 ケインズ時代は大量生産・大量消費の時代であり、システムの末端は包摂の空間であった。そうした時代が終わった現在、システムの末端は「放逐」の空間へと変わっている。
 かつて経済成長は多くの人々が富を享受できるようにする手段であった。しかし、今では企業と富裕層へ富を集めることを意味するようになった。
 ケインズ時代の終わりとともに、資本主義が略奪型に変わっていることは、新自由主義に批判的な人々がよく指摘することである。本書もこうした流れを踏襲している。
 その上で、本書は「放逐」の具体的なありようを明らかにする。
 生産から遊離した金融は、サブプライム・ローンなどによって、貧困層を「放逐」した。しかし、肥大化した金融は二〇〇八年の金融恐慌によって自滅した(ただし、政府の支援を受けた金融はその後、いち早く復活した)。
 それよりも分量も多く、詳しいのは自然と環境の「放逐」である。アメリカでは天然ガスの採掘に使われる水圧破砕法によって水が汚染されている。水をビジネスの種とするネスレアメリカその他の国々で地下水を過剰にくみ上げていると言う。
 もっとも、人間の歴史の裏側にあるものは、自然と人間の略奪である。それを踏まえた上で、今の時代の特徴は何かを考えるという複眼的な視点が必要であろう。
伊藤茂訳、明石書店・4104円)
<Saskia Sassen> 米国コロンビア大教授。著書『領土・権威・諸権利』など。
◆もう1冊
 エマニュエル・トッド著『グローバリズム以後』(朝日新書)。社会の分断と国家の解体が進行する転換期を読み解くインタビュー集。
    −−「書評:グローバル資本主義と<放逐>の論理 サスキア・サッセン 著」、『東京新聞』2017年05月21日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2017052102000185.html


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グローバル資本主義と〈放逐〉の論理——不可視化されゆく人々と空間
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