覚え書:「書評:うき世と浮世絵 内藤正人 著」、『朝日新聞』2017年05月28日(日)付。

Resize6337

        • -

うき世と浮世絵 内藤正人 著

2017年5月28日
 
◆戯画的な側面捉える
[評者]清水勲=漫画・諷刺画研究家
 浮世絵とは「江戸時代に発展した多色刷木版画という大衆向け絵画」といったぐらいの知識しかない人々に、本書は様々な浮世絵の“顔”を見せてくれる。まずは「浮世」「浮世絵師」の本来の意味からスタート。絵師やその作品に接した文化人の意識に深入りするなかで、浮世絵世界の微妙な様相を露呈させる。
 「うき世」には「当世」と「好色」の二義、またはその両義が同時に備わっている、という説明は納得がいく。しかし、浮世絵を普及することに貢献した菱川師宣は「浮世絵師」と呼ばれることを避け、「大和絵師」あるいは「日本絵師」を生涯使用していたというエピソードから浮世絵の本質が見えてくる、という。それは浮世絵の開祖といわれる岩佐又兵衛が「絵師土佐光信末流」と名乗っていたことと共通の認識だという。
 読み進めるうちに、非常に興味深い事実に気がついた。懐月堂安度(かいげつどうあんど)が「日本戯画」を署名に書き添えていたことだ。それは「日本戯画師」の意味で使ったのだろう。浮世絵の表現には戯画的要素が多分にある。たとえば「吹出し」表現が結構見られる。「コマ」表現や「連続絵」表現さえ見られる。妖怪絵などは戯画的表現の極致といえよう。
 このように、研究紹介書であり啓蒙書(けいもうしょ)である本書は、浮世絵に関する新たな発見を人々にもたらしてくれる。
 (東京大学出版会・3456円)
<ないとう・まさと> 慶応義塾大教授。著書『江戸の人気浮世絵師』など。
◆もう1冊 
 内藤正人著『浮世絵とパトロン』(慶応義塾大学出版会)。天皇や将軍、諸大名が愛した浮世絵の名品の数々を紹介。
    −−「書評:うき世と浮世絵 内藤正人 著」、『朝日新聞』2017年05月28日(日)付。

        • -





http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2017052802000174.html








Resize5673




うき世と浮世絵
うき世と浮世絵
posted with amazlet at 17.06.23
内藤 正人
東京大学出版会
売り上げランキング: 449,633