覚え書:「あのころ、早稲田で [著]中野翠 [評者]市田隆(本社編集委員)」、『朝日新聞』2017年05月28日(日)付。

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あのころ、早稲田で [著]中野翠
[評者]市田隆(本社編集委員)
[掲載]2017年05月28日
 
 「あのころ」とは、学生運動真っ盛りの1960年代後半。早大生として過ごした日々を様々な友人の思い出とともにつづる。
 著者は、ユーモアあふれる筆致で世情をチクリと刺すコラムが得意だが、この回想録では動乱の時代に悩み戸惑う姿をさらけ出し、意外な一面を見せた。左翼学生の巣窟といわれた社会科学研究会に入ってマルクスエンゲルスを学ぶものの、激化する大学闘争についていけない。それに後ろめたさを感じつつ「家庭生活の安楽さ(TVでお笑い番組を観(み)て嬉々(きき)としている私)も捨て切れなかった」と明かした。悩みながらも自分の生活感覚を大事にしたことがわかる。後に幅広いコラムを生み出す力を蓄えた時期かもしれない。
 60年代の映画や漫画に愛着を持ち、色あせない価値を伝える。早世した友人たちの追想では、多彩な魅力を持った青年群像を浮かび上がらせた。「私の中では生き続けている。あざやかに」の言葉がしみた。
    −−「あのころ、早稲田で [著]中野翠 [評者]市田隆(本社編集委員)」、『朝日新聞』2017年05月28日(日)付。

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