覚え書:「認知症にやさしい街へ:上 図書館からつながる支援」、『朝日新聞』2017年03月20日(月)付。

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認知症にやさしい街へ:上 図書館からつながる支援
2017年3月20日

宮前図書館にある「認知症の人にやさしい小さな本棚」=川崎市宮前区

 世界各国から認知症の本人や家族、医療・介護関係者らが集う国際アルツハイマー病協会(ADI)国際会議が4月、京都市で開かれます。国内での開催は13年ぶり。大きなテーマの一つが「認知症にやさしい地域」のあり方です。日本での取り組み、そして国際会議の見どころを3回にわたってお伝えします。

 ■「おや?」気づいたら窓口へ連絡

 カウンターで同じ質問を繰り返す人、貸し出しカードを来るたびに再発行する人……。川崎市宮前区にある市立宮前図書館のカウンターで、認知症ではないかと思われる利用者の姿が目立つようになったのは、この数年のことだ。

 東京のベッドタウンである同区は、市区町村別の男性平均寿命が82・1歳で全国2位(2010年)。夫婦2人暮らしや独居の高齢者も多い。「『困った利用者』として対応するだけでいいのか、悩んでいました」。担当係長の舟田彰さんは振り返る。

 15年12月にはじめた試みが「認知症の人にやさしい小さな本棚」。当事者が書いた本から介護保険の解説本まで関連する約140冊の本を並べ、常設のコーナーにしている。

 手応えは少しずつでてきている。昨年夏には「レビー小体型の認知症なんです」と職員に打ち明けた高齢男性がいた。幻視などが特徴のこの同じ病気の人が書いた本を「読んでみては」と紹介した。「おやじが認知症でね」などとカウンターで話しかけられることもある。

 16年には約30人の職員の大半が、病気を正しく理解し、できる範囲で認知症の人やその家族を手助けする「認知症サポーター」の養成講座を受講した。同年3月以降は、地元の地域包括支援センターとのつながりもできた。それをきっかけに「おや?」と感じた利用者がいたとき、図書館からセンターに電話して相談できるようになった。状況によってはセンタースタッフらが図書館に駆けつける。この1年間で10回程度こうした相談をしたという。

 ■「気軽に立ち寄れる場」生かす

 誰でも気軽に立ち寄れる図書館を、認知症の人や家族の支援に生かそうという試みは各地で始まっている。

 「ちゃんと知れば認知症なんて怖くない!」。宮崎県日向市の「大王谷コミュニティセンター」にある図書館には、こんなメッセージが旗に掲げられ、認知症予防の脳トレ本から本人や家族の本、絵本まで約130冊が並ぶ。

 日向市と市社会福祉協議会が中核となり、15年秋に「認知症の人にやさしい図書館プロジェクト」をスタートさせた。図書館を認知症支援のよりどころにしようと、専門スタッフによる月1回の「困りごと相談」、認知症カフェなども実施する。地域の医療機関や民生・児童委員など、多くの関係団体が協力する。

 困りごと相談に対応してきた市大王谷地域包括支援センターの池田実希さんは、相談を始めた直後に図書館を訪れた3人の高齢女性のことが記憶に残っている。「○○ちゃんのことが気になるのよ」。病院に行きたがらない女性を友人2人が連れてきた。

 井戸端会議のように話すうちに鍋を焦がす火の不始末、車の自損事故など気になることがわかった。池田さんらはすぐに動き、4日後に女性の家族に面談、5日後には病院に足を運んでもらうことができたという。「病院に行くことに抵抗を感じる高齢者には、『認知症の勉強ができる本が図書館にいっぱいありますよ』と声をかけています」

 本の感想などを書き込む「想いをつなぐノート」もある。「同じ悩みをもつ地域の住民同士をつなぐ工夫です。認知症を『わがこと』としてとらえられる地域をつくりたい」と、市社協の成合進也・地域福祉課長は話す。

 ■全国に3200カ所、高齢者の居場所に 専門家「福祉行政との連携不可欠」

 認知症の人が利用しやすい図書館のあり方を本格的に検討する動きもある。

 関西では、大阪大大学院医学系研究科の山川みやえ准教授(老年看護学)の呼びかけで、図書館職員や自治体担当者、介護関係者らによる「認知症にやさしい図書館とは?」を考える検討会が開かれている。阪大キャンパス(大阪府吹田市)で2月に開かれた2回目の会合には、約60人が集まった。

 高齢社会における図書館の多様性を考えるためのグループワークを実施。本人や家族の状況に応じたおすすめ本のリスト作成などのアイデアがでる一方、人手不足や「福祉施設ではない」という根強い意識などの課題も示された。

 筑波大の呑海(どんかい)沙織教授(図書館情報学)は、13日に同大東京キャンパスで開かれた「認知症にやさしい図書館づくり」ワークショップで現場で参照できるガイドライン作成に取り組む考えを示した。

 認知症支援の先進地である英国の図書館では、「回想法キット」と呼ばれる高齢者が若かった頃の街並みの写真や新聞記事、音楽などの資料一式を貸し出す取り組みがあるという。呑海教授は「日本の公共図書館は全国3200カ所以上あり、高齢者の居場所にもなっている。多様な支援の窓口の一つになり得るが、福祉行政との連携が不可欠だ。縦割り行政を越えて取り組みを進める必要がある」と指摘している。(編集委員・清川卓史)
    −−「認知症にやさしい街へ:上 図書館からつながる支援」、『朝日新聞』2017年03月20日(月)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12850338.html


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