覚え書:「人工知能はどのようにして「名人」を超えたのか?―最強の将棋AIポナンザの開発者が教える機械学習・深層学習・強化学習の本質 [著]山本一成 [評者]野矢茂樹(東大教授)」、『朝日新聞』2017年06月04日(日)付。

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人工知能はどのようにして「名人」を超えたのか?―最強の将棋AIポナンザの開発者が教える機械学習・深層学習・強化学習の本質 [著]山本一成
[評者]野矢茂樹(東大教授)
[掲載]2017年06月04日
[ジャンル]IT・コンピューター
 
■たいへんな勉強家、だから強い

 将棋ソフト「ポナンザ」が名人に連勝した。いまやコンピュータは完全に人間よりも強くなっている。山本さんはそのポナンザの開発者である。だから本書には開発にまつわるドキュメンタリー的な面白さもふんだんにある。そしてなによりも、山本さんは驚異的に説明がうまい。囲碁や将棋に関心がなくとも、いったいいま人工知能がどうなっているのか知りたいという人、山本さんが分かりやすく教えてくれる。
 こんなふうに思っている人は多いのではないだろうか。コンピュータは人間よりもはるかに先まで計算できるから強いのだ。あるいは、いくら強くてもけっきょくは人間がプログラムするんでしょう?−−誤解である。もちろん最初は人間がスタート地点を設定する。しかしあとはコンピュータが自分自身と対局を重ねて、勝利に結びつきやすい手を経験から把握していく。つまり、論理的だから強いのではなく、たいへんな勉強家なのである。一兆もの対局経験をもつ人間なんて、いやしない。
 山本さんは人工知能を「私たちの子供」と言う。この子は自ら経験を積んで学んでいく。山本さんはそれを見守り、必要に応じて改良を試みる。そして人工知能は、親をはるかに超えて成長していく。
 私は、プロ棋士人工知能に勝てない事態を苦々しく感じていた。でも、それは違うのだろう。例えば車は人間より速い。だけど私たちはマラソンを楽しむ。総合的にはいまでも人間が一番優秀なのかもしれないが、一番であることを人間のアイデンティティにする必要はない。人間は、へぼだから、楽しいのだ。
 棋士たちも、最初はへこんでいたが、コンピュータが開いてくれた囲碁や将棋の深さを、むしろ喜びをもって受け入れているという。いい話じゃないか。この本を読むと、コンピュータと人間の共存の未来に、少し明るい期待がもてそうな気がしてくる。
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 やまもと・いっせい 85年生まれ。愛知学院大特任准教授(情報工学)、株式会社HEROZリードエンジニア。
    −−「人工知能はどのようにして「名人」を超えたのか?―最強の将棋AIポナンザの開発者が教える機械学習・深層学習・強化学習の本質 [著]山本一成 [評者]野矢茂樹(東大教授)」、『朝日新聞』2017年06月04日(日)付。

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