覚え書:「特集ワイド どうする余剰プルトニウム 日本は「核燃料サイクル」にこだわるが…米の「秘策」希釈処分とは」、『毎日新聞』2017年03月13日(月)付夕刊。

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特集ワイド
どうする余剰プルトニウム 日本は「核燃料サイクル」にこだわるが…米の「秘策」希釈処分とは

毎日新聞2017年3月13日 東京夕刊

コスト増大の問題が浮上したプルトニウム燃料工場の建設現場=米サウスカロライナ州で2016年6月20日撮影、サバンナリーバー核施設ウオッチ提供

米国のプルトニウム処分法 ※米国では現在再処理は行われていない
 原子力政策はいまだに「夢」から覚めていない。核物質のプルトニウムを積極的に利用する構想「核燃料サイクル」の中心だった高速増殖炉の原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)は頓挫したが、政府は諦めていない。そのツケとして核兵器5000発以上分に相当するプルトニウム約48トンを抱えたままなのに、である。解決策が見いだせない中、核処理に詳しい米国の識者は秘策があると言うのだが−−。【大島秀利】

米で燃料加工工場建設が難航→新物質「スターダスト」開発で安価に
 注目の秘策は、2月下旬に東京都内で開かれた「日米原子力協力協定と日本のプルトニウム政策国際会議」(「原子力資料情報室」など日米の非営利団体主催)で紹介された。だぶついて悩みのタネのプルトニウムを処理できるニュースとして参加者の関心を集めた。

 秘策を明らかにする前に、プルトニウムの説明から始めたい。長崎に投下された原爆に使われた核物質として知られ、原子炉の使用済み核燃料を化学処理(再処理)し、分離することによって利用可能になる。

 米国は、核兵器用としてプルトニウム約103・5トンを生産した。その後、ソ連(現ロシアなど)との核軍縮合意に伴い、現在は50トンの分離プルトニウムを余剰とみなしている。

 米国はうち34トンを処分するために、プルトニウムを燃料(MOX燃料)に加工し、原発で燃やす計画を立案した。日本で「プルサーマル」と呼ばれるものだ。その燃料工場は2007年、サウスカロライナ州のサバンナリバー核施設内で着工された。

 ところが、工場建設を受注したアレバ社(フランス)などの工事は、遅延とコスト増大の問題が噴き出している。

 今回の国際会議を主催した米科学者団体「憂慮する科学者同盟」のエドウィン・ライマン博士はこう報告した。

 「工場の壁など外装はほぼできたが、機材搬入はこれからで、昨年9月末で28%の完成率に過ぎない。工期はあと30年以上とされる。また、建設費と運転コストの見通しは、02年時点では50億ドルだったのに、最近は6〜10倍の300億〜500億ドル(3兆4000億〜5兆7000億円)に膨れあがった」。さらに、プルトニウムをテロリストらに奪われないように警備員や武装の増強などが必要になると付け加えた。工場の将来性についてライマン博士は否定的な見方を示した。「燃料は高いし、核防護のための追加コストがかかるので、使う電力会社が現れない」

 そこで次善の策として、ライマン博士が会議の中で紹介したのが、米エネルギー省の研究機関が開発した秘密の物質「スターダスト」だ。プルトニウムに混ぜて希釈すると分離が難しくなるので、兵器利用などは難しくなるという。

 どう処分するのか。米国の核監視団体「サバンナリバー核施設ウオッチ」によると、少量のプルトニウムをスターダストで希釈し金属缶に入れ、さらに輸送・貯蔵用のドラム缶に詰める。1トンのプルトニウムを貯蔵するためには、ドラム缶約3000本が必要という。

 スターダストの成分についてライマン博士は「詳細は不明だが、セメントやゲル化剤などと一緒に、化学者だったら相手にしたくない処理の難しい物質が入っている。しかも金属缶ごとに意図的に成分を変えてランダムに入れるので、一つ一つサンプルを取り、中身を解析しないと、プルトニウム分離の処理ができない」と話した。

 核施設ウオッチによると、サバンナリバーの施設分などで既に4・8トンのプルトニウムが「希釈処分」され、ニューメキシコ州の地下650メートルの岩塩層の中に処分されたという。エネルギー省はスターダストを使った希釈処分の総費用は172億ドル(約2兆円)と予測し、工場で燃料化したプルトニウムの処分よりも安価という結論を出した。

 核施設ウオッチのトム・クレメンツ代表は「エネルギー省がプルトニウムの燃料計画を打ち切ることを望む。米国の余剰プルトニウムは大きなマイナスの価値を持つ極めて厄介な代物であり、核燃料としての価値を全く持たない」と話した。

 米国では四苦八苦してプルトニウムを減らそうとしているが、日本は、燃料サイクルにこだわっている。

 しかし、これまでの道のりは「失敗」の連続だった。当初は、プルトニウムは主として「もんじゅ」など高速増殖炉の燃料にする予定だった。だが、増殖炉開発は挫折し、通常の原発で燃やすプルサーマルに重点を移した。10年までに16〜18基の原発で使う予定だった。

 頼みのプルサーマルも1999年に英国で燃料の製造データの偽造が発覚したほか、東京電力福島第1原発事故に伴う全原発の停止などがあり、現在、実績があるのは玄海、福島第1、伊方、高浜の各原発の計4基に過ぎない。こうした結果、日本の分離プルトニウムは、英仏に再処理を委託した分を含め約48トンに上るが、処分のめどが立たない。

 そんな中、政府や電力会社などが固執するのが、毎年8トンものプルトニウムを分離できる六ケ所再処理工場(青森県六ケ所村)の稼働だ。日本原燃は18年度上期の完成を掲げている。

 日本の再処理は、日米原子力協定で認められている。外務省の核不拡散や原子力の担当者も「プルトニウムはきちんと管理し、その量を詳細に公開し、余分な量を持たない政策のもとで核燃料サイクルを推進している」と強調する。だが、六ケ所再処理工場に対しては、「分離したプルトニウムによるプルサーマルのコストがウラン燃料に比べはるかに高いことは疑問の余地がない。再処理が許されていない他国も刺激する。六ケ所再処理工場を運転せずに廃止することが最も合理的な判断だ」(原子力資料情報室の伴英幸共同代表)といった批判や不安がつきまとう。

 ライマン博士は「日本は余剰プルトニウムの処分について米国が直面する問題から教訓を学び、再処理工場を動かして、さらに深刻なプルトニウム問題を抱え込まないようにすべきだ」と提言。「スターダストの組成は公開されていないが、日本と共有できるかもしれない」とも話した。

 世界で原発高速増殖炉が林立して、ウランが不足し高騰−−というプルトニウム利用を正当化した前提は崩れている。それどころか世論は「脱原発」に傾き、省エネルギー再生可能エネルギーの普及が進んでいる。これ以上、国内外の現実とのねじれが生じないよう過去の国策を変えるときだ。
    −−「特集ワイド どうする余剰プルトニウム 日本は「核燃料サイクル」にこだわるが…米の「秘策」希釈処分とは」、『毎日新聞』2017年03月13日(月)付夕刊。

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