覚え書:「書評:『摩訶止観』を読む 池田魯參 著」、『東京新聞』2017年07月02日(日)付。

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『摩訶止観』を読む 池田魯參 著  

2017年7月2日

◆心の重層性、成仏の可能性
[評者]菅野博史=仏教学者
 『摩訶止観(まかしかん)』は、中国天台宗の開祖である天台大師智〓(ちぎ)の瞑想(めいそう)修行の体系とその仏教学的裏付けについて記した書物である。智〓は陳・隋に活躍した仏教僧として著名であり、日本においても、最澄による天台宗の日本輸入以降、天台宗、鎌倉新仏教、とくに日蓮系諸宗派において重要視されてきた。
 『摩訶止観』は、仏教の瞑想修行を、心の散乱を止める「止」と真理を智慧(ちえ)によって観察する「観」との二文字に畳み込んで体系化した書物で、とくに私たちの一瞬の心に地獄界から仏界までのあらゆる世界を備えるという、心の重層性、成仏の可能性を説いた「一念三千」を説き示し、善と悪の両面を包含する人間の全体性を見すえながら、いかなる境界からも仏の境界を実現できることを明らかにした。
 このように歴史的に重視されてきた書物で、岩波文庫からもテキストが刊行されているが、専門家にとってもかなり難解な書物である。このたび、かつて『摩訶止観』の現代日本語全訳を果たした池田氏が、一般の読者のために平易な入門書を刊行した。解説者として最適任者を得て、『摩訶止観』が多くの読者にとってより身近なものになることを願う。
 本書は二十数年前のラジオ放送のテキストに、改めて加筆補正して成ったものである。『摩訶止観』の要文(訓読訳)を引用し、その大意を示し、解説を加えるという体裁を取っている。
 岩波文庫本はサブタイトルに「禅の思想原理」と付し、本書にも帯に「坐禅の原点へ」という語句が見られる。池田氏も「はしがき」でマインドフルネス(注意深く対象を観察すること)の流行に言及している。現代人が自己の心の問題に取り組むときに、『摩訶止観』はすぐれた導き手となってくれるはずである。ポール・スワンソン南山大教授の『摩訶止観』英語全訳がまもなく刊行されるので、『摩訶止観』は仏教に関心のある欧米人の間でも注目されるようになるかもしれない。
(春秋社・3240円)
<いけだ・ろさん> 1941年生まれ。駒澤大総長。著書『詳解摩訶止観』など。
◆もう1冊 
 菅野博史著『一念三千とは何か』(レグルス文庫)。特に日蓮系諸宗派が重視する「一念三千」の教義を現代語訳とともに解説。
    −−「書評:『摩訶止観』を読む 池田魯參 著」、『東京新聞』2017年07月02日(日)付。

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『摩訶止観』を読む
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